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煉義SS詰め

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愛の花咲く



 煉獄が任務帰りに辻占を買ったのは気紛れだ。割った菓子には絵が描かれた紙片が入っていた。
「ほう、これは縁起が良い!」
 紫陽花は良縁成就。想い人の瞳を思い出させる花でもある。
 菓子で想いが成就するわけもなかろうがと苦笑した煉獄は、人波に見知った顔を見つけ瞳を輝かせた。
「冨岡!」
 冨岡は足を止めたものの、駆け寄る煉獄に言葉を返すでもない。
「君も帰りか? 一緒に飯を食おう!」
 色よい答えが返ったことはないが、冨岡を誘うのはもはや癖である。
 水と炎は一対だ。どの時代でも必ずそろって存在している。水柱の冨岡とは縁がある筈だと、せっせと声をかけているが、成果は芳しくない。今日も「行かない」の一言だろう。
 せめて一緒に帰れるといいがと思っていれば、冨岡はこくりとうなずいた。とっさに出たのは「よもや!」の一言だ。
 気が変わる前にと、冨岡の手を引き入ったのはすぐそばにあったミルクホール。
 牛乳とシベリアでは物足りなかろうが、冨岡に不満はないようだった。ちんまりと三角形の菓子を食む唇の端に、食べかすがついている。
「君は口が小さいな」
 笑って手を伸ばした煉獄に、冨岡はわずかにまつ毛を伏せた。耳が少し赤い。
 常に凛と麗しい冨岡の初めて見る愛らしさに煉獄は息を飲む。
「そうだ。さっき辻占を買ったのだが」
 気恥しさを誤魔化すように、煉獄は先ほどの紙片を取り出した。
「よければ貰ってくれ!」
「おまえが得た運だろう」
「俺はもうご利益を得たからな!」
 きょとりと藍の目をまばたかせる稚い仕草に、煉獄の鼓動が速まった。
「なにかいいことがあったのか?」
 問う冨岡は、煉獄が今感じている幸せになど、気づいてはいまい。
「あぁ、だから君にもお裾分けしたい」
 冨岡の手に紙片を握らせ、煉獄は笑った。
 いつか冨岡も、自分と過ごす時を幸せだと思ってくれたらいい。
 藍の紫陽花は、愛に通ずるのだと聞く。
「もう分けてもらった」
 そっと呟いた冨岡の瞳の色は、愛の色をしていた。

※初出2021/1/20 お題:恋愛運気急上昇

作品名:煉義SS詰め 作家名:オバ/OBA