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【短編】幼馴染からの本命チョコ、受け取ってくれますか?

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本日、2月14日は戦争の日である。
 それは、数週間前にクラスの男子達が企画した、『女子からチョコをもらった数勝負』のせいだ。
 勝者には尊敬と名誉が、敗者には哀れみと非モテ王の称号が与えられるこの勝負、男のプライドにかけて絶対に負けたくない!
 そう考えた俺、赤村拓也は勝負が決まったその日から、プリント運びから落とし物捜索まで様々な雑用を引き受け、色んな女子に媚びを売りまくった。
 つまり、戦う前に勝負を決めているということだ。

「さーて、まずは下駄箱だよな! 何個入ってるか楽しみだ!」

 ◆◆◆◆

「なんで一個も貰えなかったんだぁぁあああ!」

 放課後、涙を堪えながら帰宅した俺はベッドに飛び込び号泣する。

「どうして俺はこんなにモテないんだ……」
「何でそんなに落ち込むのか分からないけど、とりあえずハンカチ使う?」
「ああ、ありがとう。……って、何で夕香が居るんだ?」

 気が付くと幼馴染の宮崎夕香みやざきゆかがベッドの前に立っていた。

「そりゃあ居るよ。幼馴染だもん。祐也の部屋でゴロゴロしながら漫画読んだりゲームしたりするのが私の仕事」
「随分楽な仕事だな?」
「そんなことないよー? チョコ貰えなかっただけで落ち込んで号泣する男の子を慰めたりしないといけないし」

 慰めてますよーアピールなのか頭を撫でてくる夕香。柔らかい手が髪を通じて伝わってきてくすぐったい。

「ああ……チョコ……ずっと楽しみにしてたのに」
「そんなにチョコ貰いたかったの?」
「貰ったら嬉しいじゃん」
「毎年貰えなくて泣いてるんだから、いい加減期待しなきゃ良いのに」
「今年はチョコの為に色んな女子から雑用を引き受けてたんだ。だから絶対貰えると思ってたんだよ」
「え、チョコの為に女の子に媚び売ってたの? いつ?」
「実はこの数週間、チョコの為に放課後に色んな女子から雑用引き受けて媚び売ってたんだ。なのに下駄箱にも机の中にもロッカーの中にもチョコが入ってなかった……」
「あーそっか……そういうことだったんだ。なーんだ良かった」

 何故か少しさっきより元気になり、とびっきり笑顔になる。その仕草が可愛いくてついドキッとしてしまう。

「って、いやいや可愛いけど、酷くない? 何で慰めてるはずの幼馴染夕香が、俺のチョコ貰えなかったエピソードを聞いて喜ぶんだよ!?」
「だってここ数週間の悩みの種が解決したんだもん。安心したくなるじゃん。というか私、祐也に謝って貰いたいんだけど?」

 先程までの満面の笑みを消し、口をちょこんっと尖らす夕香。

「私、ここ数週間、裕也が他の女の子に媚び売ってるなんてつゆ知らず、いつも通り裕也の部屋に来てたのに、ずっと1人きりだったんだよ?」
「え? 来てたの?」
「1時間したら帰ってたから気付かないのも仕方ないけどさー」
「連絡しなくて悪かった。本当にごめん」
「もうほんとだよーこれは何かお詫びが欲しいなー?」
「俺に出来ることなら何だってさせてくれ」
「うん、祐也ならそう言うと思った」

「じゃあさ、このチョコ受け取ってくれる?」
 
 夕香はそう言うとポケットからビニールとリボンで梱包されたチョコを取り出し渡してきた。

「お、俺に恵みをくれるのか? もちろん受け取る! 義理でも貰えるのはマジで嬉しい。ありがとな」
「そのチョコ、義理じゃなくて本命だから」
「え?」

「この数週間、裕也が放課後居なくてさ、嫌われちゃったのかなとか、このまま疎遠になっちゃうのかなって考えてたら胸がぎゅーって苦しくなったの。
私、祐也のことが好きみたいなんだ。だから、私と付き合ってくれませんか?」

 正直、夕香のことをいつも可愛いと思っていた。でも、夕香はアイドル顔負けの美人で勉強もスポーツも出来る優等生。顔も普通で何の取り柄もない俺とは釣り合わない。だから、夕香のことを恋愛対象としてずっと考えないようにしていた。

「俺じゃ釣り合わないと思うけど」
「裕也だから良いんだよ」
「それじゃあ、恋人として……」
「うん、よろしくね」

 ◇◇◇◇

「そういや、何で裕也は色んな女の子に媚び売ってまでチョコ欲しかったの? 彼女が欲しかったとか?」
「それもあるけど、クラスの男子達とチョコの数で競っていたんだ」
「何それ、下らない〜。祐也、私からの一個だけで勝てるかな? 他の男の子達はどんな感じだったの?」
「クラスの女子名が俺以外に配ってたから負けると思う。なぜか毎回俺が配られる番になるとチョコ無くなったんだよな……」
「そうだったんだ。じゃあ裕也は負けちゃったね?」
「可愛いしか無い超絶美少女な幼馴染から本命チョコ貰って彼女が出来たんだ。数では負けたかもしれないけど、こっちのが幸せだ」
「〜〜っ! 不意打ちで言わないでよ! 照れちゃうじゃん」
「おう、顔真っ赤で可愛いぞ?」
「調子に乗るなしバカ。そんなこと言われたら好きが溢れちゃう」
 
 そう言いながら夕香が顔を近づけてきて、目の前に夕香の顔が来た瞬間、唇から柔らかい感触が伝わって来た。

「ねぇ、キスも合わせたらもっと勝ちだと思わないない?」