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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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最後の「夜間院長」だった

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 仕事帰りの電車で、同僚のSに、『アバウト・シュミット』の話をした。
Sも映画好きだ。

 「どんな映画なの?」Sが聞いた。
「そうね。保険会社を定年退職した男がいてサ。」
「ホウ、それで?」
「仕事も家庭の愛情もなくなるんだ。」
「でも、奥さんいるんだろう?」
「ところがサ。奥さんは、掃除機かけてる最中に、急死しちゃうんだ。」
「ヘエ、そんなことあるのかね。」Sは言った。
「奥さんも気の毒だなあ。」
「それがそうでもないんだ。」
「どうして?」
「奥さんは、彼の親友と実は浮気してたんだ。それに、彼とは趣味が合わなかったし、魅力的でもなかった。たぶん、前から持て余してたんじゃないかなあ。」
「じゃ、彼にとっては、ラッキーだったわけ?
でも、葬式はちゃんとやったんだろう?」
(Sはどういうわけか、こういうところは鋭く頭が回転する。不思議な男だ。)

 「そうだよ。いちおうちゃんとやったんだ。」
「いちおうって、何だい?」
「ウン、やったことはやったんだけど、娘とうまくいかなくなったんだ。」
「どうして?」
「葬式の後で、娘に言われたんだよ。」
「何て?」
「『パパは、ママの棺をケチったわね。一番安いのにしたでしょ』って。」
「そうだったのか。やっぱりね。それで何と答えたんだい、彼は。」
「こう言ったんだ。
『いや、そんなことはない。もっと安いのもあった。』って。」
「ホウ。それで娘さん、何て言ったの?」
「そしたらね。
『一番安いのって、松の木だけのお棺のこと?』って。
そう言われて、シュミットさんは、黙ってしまったんだ。」
「ホラ見ろ。どこの家も娘の目は厳しいんだよ。お前は関係ないかもしれないけどね。
オレには参考になったよ。それからどうしたんだい?」