最後の「夜間院長」だった
医者がヒーローになった邦画では、黒澤明の『赤ひげ』がある。
山本周五郎の原作だ。
高校のころ見て感銘を受けた。
私が特に感動したのは、赤ひげ先生が、貧しい患者さんを救うだけではなくて、関節技などで、悪い人間を懲らしめる場面だった。
私は「赤ひげ」を演じた三船敏郎に憧れた。
当時、私の周囲には懲らしめなければならない人間が多かったが、私は懲らしめられてばかりいた。
一生に一度ぐらいは思い切り悪を懲らしめたいというのが、私の夢だった。
あの時、すぐにでも「西欧文化研究会」などをやめて、空手や合気道など格闘技の世界に身を投じるべきだったろう。
しかし決心がつかず、そのまま優雅なサークルを続けた。
そのためだろう。現在に至るまで、私の周囲にはびこる悪を懲らしめられないままでいる。
医者ではないが、医者の卵(インターン)が悪者になる映画があった。これも黒澤明監督で、『天国と地獄』だ。
誘拐犯人になった山崎努は、ニヒルな貧しいインターン生がはまり役だった。
医者が悪者なのはわかるが、医者になる前から悪者だったという話は珍しい。医者の資質を考える上で示唆に富む映画である。
作品名:最後の「夜間院長」だった 作家名:ヤブ田玄白