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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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最後の「夜間院長」だった

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最後の「夜間院長」だった



 ついに、その日がきた。
今日は私の「夜間院長」最後の日だ。
定年までまだ残っているのに、今日が最後だ。不条理である。

 私は、夜間だけではあるが、「院長」という名誉ある職責を果たすことを楽しみにしていた。
「検食」するのも楽しみだった。ただで夕食が食べられるのは嬉しい。
夜間院長辞任の理由について、ここで、はっきり書いておかなければならない。
私の責任ではないのだ。

 私が夜間院長として、不祥事をはたらいた、
私が夜間院長として相応しくない人材だ、
私が夜間院長のたび「検食」するため、患者の食事が足りなくなって困るというような理由ではない。
私が夜間院長を辞任するのは、私に直接関係ない理由である。
本当の院長が、一か月に一回まわってくる夜間院長をやるのが面倒になったせいだ。

 院長だからといって、勝手にやめるわけにゆかない。
皆に文句を言われる可能性がある。
そこで、院長より実力はないが、年齢だけは上の私を巻き添えにして、一緒に夜間院長を辞めようとしたのである。
私は不服を申し立てようと思ったが、大人げないので黙っていた。

 そんなわけで、今日で終わりなのだ。
本当のことを言うと、こんな嬉しいことはない。
院長の粋な計らいに感謝している。