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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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故郷へ帰った (二)

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 それからしばらくたって、高校の同期会が故郷の○○市であった。
私は、一年ぶりで帰った。
週末だったので飛行機は満席だった。

 シートベルト着用サインが消えて、私は、空港で買った弁当を広げた。
売店の人がうっかり忘れたのだろうか、私の弁当には箸がついていなかった。
〈どうしよう? 箸がなければご飯は食べられない〉

 以前、ある奇特な読者から
「先生はこれから筆一本で食べていけそうですね」と煽てられたことがある。
しかし、慎重な私は、〈筆一本で食べるのは、箸一本で食べるより難しいだろう〉と思って、その気にならなかった。
しかし、その箸が一本もない。
箸なしにご飯を食べることは不可能だ。(私はインド人でない)

 客室乗務員に「箸はありませんか?」と尋ねた。
戻ってくると、申し訳なさそうな顔で
「この飛行機ではお食事のご用意はしておりませんので、お箸はございませんが、スプーンならあります。もしそれでよろしければ持ってまいります」と言った。

 私は、客室乗務員が持ってきてくれた、プラスチック製の白い小さなスプーンで弁当を食べた。
記憶をたどってみたが、スプーンで弁当を食べたのは初めてのような気がする。貴重な経験だった。

 私は、今後のため、
「食事の用意はなくても、箸は用意しておいたほうがよいでしょう。」と、アドバイスしたかった。(しなかったが)

 故郷は曇り空で、東京に比べるとだいぶ涼しかった。
注意深い私は、風邪ひかないように、ジャケットを羽織った。
タクシーで実家に着くと、九〇歳を越えて元気な母が玄関に出迎えてくれた。・・・・続く