故郷へ帰った (一)
病院の中の個人情報保護
「個人情報保護法」という、重要だが面倒な法律が施行されて20年近くなる。
よくあるニュースとしては、仕事に使うパソコンのファイルを自宅のパソコンに入れた結果、誤って、個人の住所、氏名、電話番号、生年月日などがインターネット上に流出する事件などで、重大な社会問題になっている。
私たちの病院でもこの法律に則って、個人情報保護のため、様々な改善がなされている。
昔は、外来診察室では、何人かの医者がカーテン一枚で仕切られて診察していた。そのため、よほど小声でない限り、隣にいる患者さんと医者の会話が聞こえたものだ。
人には聞かれたくない二人だけの秘密もあるだろう。
そのような個人情報を保護するために、カーテンではなく、パネルのパーティションを作ったようだ。
呼び出しシステムも変わった。
公衆の前で患者さんの名前を呼んではいけない。
電光掲示板に患者さんの受付番号が表示される。
そのため病院に行くと、めったに名前を呼ばれる事はなくなったが、患者さんは寂しくないだろうか。
採血室や検査室では、人違いを避けるため、ご本人から名前を名乗ってもらうことになっている。
これは、何べん来ても毎回言わされる。
顔を見て誰だかわかっていても、言ってもらうのが規則だ。世の中には、まったく同じ顔の人が二人以上は必ずいると考えているのだろう。
作品名:故郷へ帰った (一) 作家名:ヤブ田玄白