「検食」だけではすまなかった
ターミナル駅に着いて、急行電車を待った。
整列乗車の前から三番目で、座れそうな感じだった。
電車のドアが開いて、私は空席を目指した。
ところが、私が座ろうとした席は、一人のオバサンがデパートの紙袋で塞いでいた。
手を振りながら大声で、
「○○さーん、○○さーん、はやくー!」と叫んでいる。
私はムッとして、文句を言ってやろうと思った。
しかし、強そうなオバサンの顔を見た瞬間、とても勝てそうにないと思って、遠くのツリ革につかまった。
私は思った。
〈あのオバサンも、何十年か前は花嫁姿だったのだろう。
皆に「素晴らしい性格のお嬢様です。」と誉められたかもしれない。
その後、ああなったのは、環境のせいなのだろうか、それとも、もともとそういう人だったのだろうか?〉
いろいろ考えさせられる一日だった。
作品名:「検食」だけではすまなかった 作家名:ヤブ田玄白