つき、は。
ベランダに立っている。
見えない月の、見えない土地の、
「裏側」なんて呼ばれてるところ。
そんな場所がこの世界にはあって、
ほんのちっぽけな、
これもまた、本当に存在するか危ういような、
だれも知らないベランダのすみっこで、
夏の昼間の日の残りの温みと、
もうすぐに吹いてくる秋風の予感の両方が、
目や耳や鼻から沁みてくるのを、
それをいいわけに、
わたしは泣いている。
日の当たる場所と、そうでない場所。
月はなにも言わないで、
ずっと闇のなかの陽だまりであり続ける。
背中にある傷の歴史は、
果てのない宇宙を睨み続けている。
誰が知るだろう。
月の痛みを。
闇を見つめる孤独を。
その、どすりと重い、
悠久の旅を。
わたしが消えてしまうとしたら、
こんな名もない夏の1日の終わりがふさわしい。
月は見えない。
今日は違う街で見知らぬ誰かの、
哀しみを拾い集めているのだろう。