女の歯医者さんだった
部長は忙しいらしく、治療は若手に任せて、いくつもの診察台のまわりをフラフラ歩いていた。
しかし、途中でKさんに電話がはいると、すぐに私のところに来て治療を続けた。
さすが慣れたものだ。
高速回転ヤスリのキレが違う(ように感じた)。
ところが、治療中、ポツリと呟いた。
「動いてる歯がありますネ」
不気味な発言だ。
今治療中の歯が終わっても、次はこの歯だ、と、暗に脅迫しているフシがある。
帰りに、部長から「治療計画書」を渡された。
「治療予定期間」には「約二ヶ月」と書かれている。
私の不安は的中した。
部長は、また別の歯の治療を始めるつもりらしい。このシリーズはまだ終わらない。
作品名:女の歯医者さんだった 作家名:ヤブ田玄白