続・嘘つきな僕ら
僕たちはその後で、深夜の喫茶店に店を変えて話をしていた。
「ごめんな、俺、本当にバカだったんだよ」
「僕も、ごめん」
ついに素直にそう言えてからは、彼は元のように僕を優しく見つめてくれていて、僕たちは、今自分がどこで何をしているのかを、話し合った。
「親父の会社の役員が金持って逃げてさ、会社はやってけなくなったから、俺、今じゃ営業マンだよ」
「そうなの?大変だったんだね。ご両親は?大丈夫?」
「ああ、その辺は平気。今は二人とも働かなきゃいけなくなったけど、うちは元々そこそこの貯金あったし、家のローンもそろそろ終わるらしいしな」
「そっか。それなら良かった。残念なことだけど…」
「元役員がどこにトンズラしたのか知んねえけど、見つけたら、ぶん殴るくらいじゃ済まねえぜ」
そう言って彼はセブンスターを吸い込む。その店は個人経営の小さな純喫茶なので、いまだに席に灰皿が置いてあった。
「お前は?どこいんの?今」
「あ、っと…ここから3駅の会社で、“マイホーム”っていうんだけど、建設系の製造業で、そこで事務やってる。家はこの辺だよ」
「事務ぅ〜?相変わらず地味なのな、お前」
そう言って笑う彼は、僕をからかうんじゃなくて、懐かしんでくれているんだと分かっていた。
「だって…あんまりほかにできることなくて…」
「へへ、まあそれでいいんだよ。俺はむしろ、事務なんかやって建物に閉じ込められたら、ストレス溜まってしょうがないぜ」
「まあ、それなりにあるよ、ストレス」
「そっか。でも、頑張れよ。俺たち…」
そう言いかけて、彼は一瞬躊躇い、言い直す。
大事なことを言おうとする時に、彼が見せてくれる本気の顔が、思い悩む表情が、あの頃と変わらなくて、僕は嬉しかった。
「俺たち…また会えたんだ。お前が、嫌じゃなければ…俺…」
怯えながらもそう言ってくれる雄一。
「やり直そうよ、僕たち」
そう言うと彼は驚いて顔を上げ、みるみるうちに泣き出した。
“君も、寂しかったのかもしれない”
一生懸命涙を拭う彼。意外と僕より泣き虫なんだ。
「ごめんな…稔…ほんとに、ごめん…」
「いいんだよ、もう」
「ありがとう…」
帰ろうとしたのはもう夜中の1時だったけど、雄一は自分の家には帰らなかった。
僕がマンションの玄関を開け、彼はちょっと遠慮がちにドアをくぐる。
灯りを点けた時、「けっこうきれいなのな」と彼は言ったけど、僕は何も言わなかった。
鼓動の音が体中を揺らして、期待が高まるまま、止められない体で浴室へ向かう。
僕は支度を済ませて彼の元へ戻り、その晩彼の腕の中へと帰って、必死に甘え、泣きついた。
彼はあの頃よりずっと優しくて、なかなか僕を放してくれなかったから、苦しいくらいだったのに、それが嬉しかった。