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靴の男

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靴の男




 あいたっ、いたー! ちょ、ちょっとお兄さん勘弁してくださいヨォ、ほんのちょっと魔が差しただけじゃ、アッ、アイテッ、イテーッ! すいませんすいません、ほんとーにすいませんってば、うあ゛ーあ、もっ、ちょっ、骨折れちゃいますって、イッ、ぎっ、ギブアップ! ギブアップッ! え、あ、何? 何ですか? 何で、人の靴盗ろうとしたのかって? え、そ、そんなのお兄さんに関係、イテテッ、だから腕捻らないで下さいって、話しますっ、はーなーしーまーすーかーらー、いたたたたっ。ひっ、ひふー、もうちょっと力抜いてくださいよ。話すにも痛くてなかなか話せやしない。は…はー、痛かったァ。じゃあ、話しますけど、変な顔しないで下さいよ。あのですね、僕はですね、ええとですね、靴をですね、ええと、アイタッ、早く話せって、頭殴んないで下さいよ。何言おうとしてたのか忘れちまう。おー、イタタ。うわっ、手振り上げるのも止めてください。早く話しますから! あー、もー、独裁者のようですね貴方は。はいはい、解りました。ですからね、僕が靴を盗ろうとしていたのは、僕が靴がだいすきだからです。あ、何てつまんない理由だって顔してますね。でも、そういうもんですよ。犯罪を犯す理由はいつだってつまんないもんです。は? 盗った靴を飾るのかって? ハァ、ううん、ええと、飾ったりも、します、けど、ちょっと何だって答え急かさないで下さいよ。もうっ、せっかちな人だなあ。だから、ええと、舐めたりするんです。僕、靴を舐めるのがすきなんです。たまに靴の裏でアレを擦ったりもしますね。えへへ、あれは気持ち良くって、あ、何ですかその顔! 蝿でも見るような目つき止めてくださいヨォ! まぁ、確かに僕の趣味が理解できないのはわかります。へ、何で靴舐めるようになったのかって? 聞きたいですか? 聞いてもいいことなんてないですよ? はぁ、一応聞いておきたい、好奇心が身を滅ぼすことも、イテッ、だからすぐ殴らないでくださいよって! はいはい、もう、僕が靴を舐めるようになったのは僕が小学2年生の時のことです。僕は兄の靴がだいすきだったんです。あの、わかりますかね、歩くと踵の辺りがピカピカ光るスニーカー。それを兄は履いていたんです。僕はずっとそれが羨ましかったんですよ。欲しくて欲しくて堪らなかった。それで、ある時、その靴を盗っちゃったんですよ。部屋に持って上がって、ブカブカのそのスニーカーを履いてみたんですね。だけど、何だかしっくり来ない。あれだけ欲しかった靴を履いているのにちっとも嬉しくならない。不思議で仕方なかった。だから、マジマジとそのスニーカーを眺めてみたんです。そうしたら、あのピカピカする部分に汚く泥がこびり付いてるのが見えたんですよ。それを見て、何だかすごく、すごく興奮したんですね。ピカピカだったスニーカーが汚れてるのが何とも言えず愛しくて。スニーカーの中も嗅いでみたんですよ。そうしたら、臭いが酷くて酷くて、それなのにまたお腹の下辺りがずくずくして。気付いたら、四つん這いになって殆ど顔を突っ込むようにして嗅いでましたね。それから、泥も舐めました。口の中に土の味が広がって、全身が震えて涙が出てきました。嬉しくって嬉しくって心地良くって、どんなケーキよりも甘美な味だと思いました。それから靴が涎でびちゃびちゃに湿るまで舐めましたね。流石にもう兄には返せませんでしたよ。それが僕が靴を舐めるようになった始まりですかね。え、やっぱり気持ち悪いですか? 確かに僕は靴を舐めて悦んでるような奴です。でも、貴方が女性のアソコを舐めるのと大差ないことだと思ってます。僕にとって靴が女性のアソコなんです。わかります? わかんないですか。貴方理解できないって顔してる。そうですよね、理解できませんよねぇ。えっ、何で笑ってるのかって? いえ、だって、ねぇ、貴方こんな素晴らしいものを理解できないなんて勿体無いなぁって。僕だけこんなに良い物を知っていて良いのかって、えへへ、えへへ、え、全然勿体無くないって? 気持ち悪いからどっか行けって? そんなこと言わずに、ねぇ、お兄さんも一度舐めてみればいいんですよ。そうすれば僕のことを理解できますよぉ。ねぇ、お兄さん、えへへ、えへへ、アイタッ!! うわっ、いきなり殴らないで下さいよ! そんな殴らなくても、何処かへ行きますよ。はいはい、消えます、消えますってば、えへへ、えへへ、えへへ……

作品名:靴の男 作家名:耳子