「人間ドック」というところ
「そちらのドックで受診したら、肝臓の検査で異常が出ました。私には思い当たる理由がありません。以前何万円も出して、別の病院のドックを受診しましたが、これまで一度も異常があった事はありません。それなのに今回、貴方の病院で初めて異常と言われました。どういうわけでしょう?」
検査に異常が出たのは、私の病院、あるいは私のせいだ。
納得できる回答をしてほしい、というふうに聞こえた。
質問自体は大したことではない。
私がとくに緊張するようなことではない。
私も医者だ。知識は彼女よりはある。
「いろいろ考えられますけど、急に異常が出たのなら、薬の影響なんかもあるかもしれませんね。
最近風邪をこじらせて抗生物質なんか飲みませんでしたか?」
「抗生物質? そんなもの飲みませんよ。私、風邪ひきませんから」
「そうですか、じゃ、アルコールはいかがですか?」
「失礼ね、私、お酒飲みません。嫌いですから」
「そうですか、じゃ失礼かもしれませんが、最近体重が増えて、肝臓に脂肪がたまったなんてことは考えられませんか?」
「どうして、そんなこと聞くんですか。失礼ね! 絶対ありません」
問題なのは、肝臓の異常より、この程度のことで、彼女が怒っていることだ。
肝臓の心配をするよりも、神経科を受診したほうがいいだろう。と思ったが、それは言わなかった。
作品名:「人間ドック」というところ 作家名:ヤブ田玄白