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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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運命的な年ごろ

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私たちは、その日、ただの噂話をしていた。

「ねえねえ、先輩ってさ、彼女いるのかな」

「いるんじゃない?あれだけかっこいいんだし。私、別の女の子の先輩と一緒にいたとこ、見たことあるし」

そう言っている私の胸は、初めての痛みに震えていた。

「ええ〜、そうなんだぁ…狙ってたのになぁ…」

世慣れた振りをして見せる真子は、大げさに項垂れながら、ちゅうちゅうとジュースを啜っている。

昼休みの教室は騒がしくて、私は前の席の真子と話していたけど、心は「彼」の元に飛んで行ってしまう。

“わかってるよ”

叶わない恋だと知っていた。先輩は、前に「彼女のためにバイト行ってきます」なんて、部活帰りに私に笑って見せた。

“ひどい人”

そんな風に人を責めたくなったのも初めて。こんなに苦しいのに、友達にさえ言えないのも。

「どしたの」

顔を上げると、真子は心配そうにこっちを見ていた。だから私は首を振る。

「ん、なんでもないよ」


私はその日、部活帰りの先輩を引き止め、ついにこう言った。

「彼女のために、バイト行くんですよね」

彼は、その時初めて私を見た。

“ああ、悔しい”

いたたまれなさそうな顔で私から目を逸らし、先輩は人差し指で頬を掻く。

前髪の隙間に見える目は、もう私を映してくれない。

「ごめん、ね…」

「いいえ」

脇を見ていた先輩を残して、私は校門を目指した。

学校を出た途端、涙が零れる。止まらない。

「う、うああ…」

嗚咽が漏れても私は構わず泣いた。

“だって、私は今、可哀想なんだもの”

エゴにまみれた私の体は、もう幼い妖精では居られなくなったと、分かった。

初めて純情を捧げようとしたのに、彼はそっぽを向いた。

終わった恋を悔やみながらも、私は強く強くこう思っていた。

“私たちだって、小さな運命なのよ。私は初めて思い出になったのよ”

勝手にそう決めてしまった事に気が咎めたし、それがあまりに短絡的だとは分かっていたけど、じっくり考えるほどの時間は私に無かった。


涙が乾いて家が近くなった時、妙に気分が沈んでいった。反動だったのかもしれない。

目覚めたばかりの私は大人の振りをする事しか出来なくて、強がってこう言った。

“わかってる。私たちって、運命的な年ごろなのよ”

“これからこうやって、いつまで翻弄されるのか分からないけど”

“慣れる前に死んでやるわ、絶対”




End.
作品名:運命的な年ごろ 作家名:桐生甘太郎