夏空
少年時代より仏道に入り、多数の大乗経典を誦習、研究。
長じて虎問寺を開山し、その人柄と見識によって大勢の門弟たちから慕われ、その巨躯もあって大人(たいじん)と尊ばれた。
壮年期に入ると仙道にも強い興味を抱き、舞空術を習得。虎問寺と葛城山の間を飛んで行き来するのを習慣としていた。
が、しかし、いつもの飛行をしていたある日、吉野川の岸辺で衣を洗う若い女性の白いふくらはぎを目にするや集中力を失って墜落。
首の骨を折る重傷を負い、駆け付けた門弟たちに向け「私は死んでも、空から皆の仏道成就を見守る」と言い残して死去した。
なお、この後、師の遺言にちなんで門弟たちによりある種の雲が「入道雲」と呼ばれるようになったが、女性が薄着や水着になる季節によく現れることに門弟たちの含みがあったかどうかについては諸説ある。
(了)