久しぶりの歯医者だった
私はしばらくぶりの出席なので、優先的にあいさつさせられた。
幹事の温かい心配りらしいが、私には迷惑だった。
しばらくぶりは私だけでなく、十人ぐらいいた。
卒業年次の順に、一人三-五分の予定であいさつする。
年寄は話が長い。
それに、やけにアツく語る。
一〇分以上、平気でしゃべっていた。悪酔いしているのかもしれない。
昔の学生運動の話を延々としゃべった。
あの時、誰がどうしたから闘争は成功しなかったとか、それでも俺はいろいろ活躍した、とか、まるで昨日のことのようにしゃべる。
それなのに、さっき玄関で、
「こんにちは、お久しぶりですね、ヤブ田です。」と挨拶してから、一〇分後にトイレで会った時には、
「どなたでしたっけ?」と忘れていた。
直近のことを覚えられないのは「認知症」の特徴だ。大丈夫なのだろうか。
先輩たちは次々に、自慢話をし、他人を貶して、まるで子供のようだった。
ウンザリした私は、なるべく印象に残らないあいさつがしたかった。(いつも自然にそうなるが)
私のあいさつは、声が小さく、内容も乏しかったのだろう。
誰にも注目されなかったようだ。
作品名:久しぶりの歯医者だった 作家名:ヤブ田玄白