石コロの価値(おしゃべりさんのひとり言 その99)
石コロの価値
僕は子供のころから収集癖がありました。
めんこ、切手、コイン、スーパーカー消しゴム、キン消し(キン肉マン消しゴム)、カード類、牛乳瓶の紙蓋、スターウォーズプリントのコーラ瓶の王冠、貝殻、シーグラス etc.
でも執着心は薄くて、コンプリート出来たり、ある程度場所を取るようになると処分したりします。それを弟がもらい受けるというのがパターンでした。
先日、実家の納屋の整理をしていた時に、そんなのが大量に見つかったんですが、その中から数百の岩石や鉱物のコレクションが出てきました。
鉄鉱石、黄銅鉱、石炭、雲母、黒曜石から、オパール、翡翠、アメジスト、キャッツアイ、ジャスパーなど半貴石の原石もあります。
これを集め出したのは小学校の頃でしたが、初めは弟も一緒に、山や川で岩石探検したものです。まだ弟の知識はショボかったので、変わった色模様の石を集めるだけでしたが、僕は図鑑片手に種類の同定に悩みながら、少しずつ数を増やしていきました。
そして大学の時、自然科学研究会に所属して、その頃までコレクションは続けていました。
そんなコレクションの中に、気になる鉱物が一つあります。
この鉱物だけは、一度たりとも記憶から消え去った瞬間がないくらい、気になっているものです。
色は銀色。形は歪んだ台形。表面には気泡のような無数の穴。磁石がくっ付く。
(隕石じゃないかな?)と、ず~っと思ってきた代物です。
これは弟が拾ってきたやつで、どこで拾ったかは、もう記憶にありません。
どこかに鑑定に出したことないから、真偽は解らないのですが、調べれば調べるほど、隕石に違いないって思うようになりました。
テレビで隕石だと思っていた塊が、ただの石ころだったり、金属片だったりしたのをよく見ます。それと比べるとますます(僕のは隕石かもしれない)って結論になりました。そして(実はどうなんだろう)という疑問が常に付きまとってきていたんです。
隕石は主に石隕石と鉄隕石にに分類され、僕のは磁石が付くので後者の可能性が高い。その成分は鉄にニッケルを含むらしいけど、僕には成分まで調べられない。見た目の感じでは100円玉みたいな質感にも受け取れるから、ニッケルを含んでいそうな感じ。
大学のクラブの顧問の教授に教えてもらって、鉱物を細い糸で水中につるしてどうとかする比重計算をしたことがあって、その数値が鉄の比重より大きかったので、比重の大きいニッケルが含まれている可能性が高いって話になった。(もっと多くの金属が混じってると全く判断できませんけど)
表面の気泡のような穴は、高温で溶けたように滑らかにデコボコした感じで、沸騰したようにも見える。単に溶けた鉄なら気泡は残らないだろうと思うのだが。
だから(きっと隕石に違いない)って信じて来れたんだ。
それが、何十年ぶりかに納屋で見付かって、僕はゾワッと身震いした。
興奮したわけじゃなく、今までの思い入れと期待が、僕の今の感性だとすべて打ち消されてしまったからだ。
それを見ても、もう隕石って気がしなかったんです。
(これは違うな)って直感でそう思いました。
散々気にして、無意識にいろんな隕石を見てきたから、その知識が勝手に蓄積されてしまっていて、その僕の鉱物に対して、脳みそのデータバンクに一致する隕石がないんです。
何より色が100円玉のままなんです。錆などが全く出ていないんです。まるでステンレス合金のよう。でも磁石に付くのは間違いない。
皆さんはステンレスは錆びない金属で、磁石はくっ付かないって思ってるんじゃないですか?
ステンレスは、鉄にクロムを混ぜた合金で錆びにくく、ニッケルを混ぜていくと磁性を無くせるんです。
つまりニッケル含有量より、クロムの方が多いステンレス合金だって結論に達してしまいました。これじゃ隕石の条件にあてはまりませんもの。
またその形状が、厚さ1センチほどの台形をしてることから、1センチ圧の板金の破片だって思えてきました。
表面の穴はまだ説明が付きませんが、ひょっとすると落下した人工衛星の破片とか、エンジンが燃えた航空機の脱落部品だったのかもしれません。
これまでの考察から僕のその宝物は、ただの金属屑だという可能性が高いんだ。トホホ。
でも長い事、夢を見られたなぁ。人生の半分以上、ずーっと気になってたのに、少し寂しい気もしますが、僕にとっては価値のあるものです。
物の価値って、そもそも何なんだって気がしてきました。希少価値だけを求めそうですが、地球上での希少性は宇宙全体から見たら、ありふれたものかもしれません。
逆にありふれた鉱物でも、僕にとっては子供のころから一所懸命集めた、貴重なコレクションだったんです。
そういえば、妻はダイヤのペンダントを気に入ってよく身に付けています。
数年前に僕がプレゼントした、安いブランドのやつです。
高級貴金属店のもっと高いダイヤより、僕のダイヤの方が好きだと言ってくれます。
石コロの価値も人それぞれ、そんなものですよね。
つづく
作品名:石コロの価値(おしゃべりさんのひとり言 その99) 作家名:亨利(ヘンリー)