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つらい時ほど小説を書こう!

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男は経営者の息子・資産家の息子として生まれ、良くも悪くもたくましく育て上げられた。
 その結果、財産をますます増やすことに成功したが、周囲との軋轢も多く、ついに妻子まで出て行かれるハメに。
 それまで男はゴルフやテニスを趣味にしていたが、感情を吐き出させてくれていた妻から見限られたその機会に、「つらい時には小説を書こう」と思い立った。
 そして以降、公私においてつらいことがあると、そこから膨らませて――もちろん、知力が高いこの男が、もめごとを招き入れるようなレベルで事実を書くことは無かった――まずは短編小説を書いた。
 例えば、円安に苦しむと、そこから着想して千字程度の短編小説を書いて投稿し、二個の「いいね!」を得た。
 また、帯状疱疹に苦しむと、そこから着想して次は二千字程度の短編小説を書いて投稿し、次は四個の「いいね!」を得た。
 もともと知力が高い男は、こうしてどんどん創作の楽しみにハマっていった。
 男の会社を取り巻く不安材料も、新たな女性たちとのすったもんだも、苦しければ苦しいほど男の脳はプロットを練りに練られ、長く巧みにでき、続いて男の筆もノッた。

       *       *       *

 現場に駆けつけた人たちは戸惑った。
 中年の経営者が、立派な自宅にて、胸にナイフが突き刺さったまま大量失血して亡くなっていたその現場。
 救急隊員も警察官も、重大難事件の予感にある者は激しく怯え、ある者は激しく憤った。
 男の血によるダイイングメッセージは、ただこう書き残されていた。
「第一章」

(了)