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ヤブ田玄白
ヤブ田玄白
novelistID. 32390
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昔はテレビが面白かったような気がする

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 電車の中はウィークデーなみの混雑だった。
通勤らしい人も少しはいるが、ほとんどが、山へ行く人だ。
私の向かいに四人並んだ登山帽の女性たちは、もとコーラス部だったのだろうか。歌声喫茶で、「雪山賛歌」なんか歌っていたのかもしれない。
「森へ行きましょう、むーすめーさん、アホッホーーー」なんて、他人事のように歌っていたのだろう。
四人そろって、小さな声でハミングしている。
楽しくてしようがない、という風情だが、私は一緒にハミングする気にはなれなかった。

 途中から乗り込んできたのは夫婦連れだった。
男性は六十ぐらい、野球帽をかぶっている。まじめそうな人だ。
奥さんのほうは、きれいに化粧して登山帽スタイルだ。
〈二人で山奥に行って、何をするのだろう? 家ではできないことがあるのだろうか?〉
二人、同じ趣味で羨ましい。と思ったが、そう見えただけかもしれない。(ご主人は、それほど嬉しそうでなかったから、本当はゴルフに行きたかったのかもしれない。)

そんなことを思っているうち、駅についた。
これから私は病院に向かうのだ。
〈でも、「病院に行く」といっても、入院するわけではないから、まあ、いいほうかもしれない〉と自分を慰めてみた。
でも、なんだか空しかった。