昔はテレビが面白かったような気がする
三〇分もたたないうちに相手は現れた。
長髪で黒のジャケットに黒の縞のネクタイ。
水商売風のオニイサンだ。
三〇代後半だろう。
男は、外来のナース、Мさんに向かって大声で怒鳴った。
「ヨウ、さっきは大した態度とってくれたナア。いろんな病院行ったけど、あんたみたいなヒデエ対応、はじめてだよ」
待合室には大勢の患者さんがいたので、私は男を別室に案内した。
こちらは、私と事務長のAさん、Мナースの三人。
(こういう場合は一対一の対応はまずい。複数で対応するのが原則だ)
「断わっとくけど、おれは、インネンつけに来たんじゃネエよ。」男は言った。
「高いガソリン代使って来てんだからサア。こっちも暇じゃネエんだ。スイマセンですむもんじゃネエだろ。エッ、聞いてんのかヨ。先生」
とスゴむのはインネンつけてるとしか思えない。
「ガソリン代、お支払いすればよろしいンでしょうか?」と聞きたくなった。
でも、今はリッター170円はする。
私の小遣いでは払えないかもしれない。思いとどまった。
作品名:昔はテレビが面白かったような気がする 作家名:ヤブ田玄白