一度、姓名判断してもらいたい
すし屋に行った
寿しは好きなほうで、年に何回かはすし屋に行く。
すし屋では、カウンターに腰をおろして、大将とサシで注文しながらつまむのが通らしい。
私は知らない人と面と向かってものを食べる事は得意でない。
相手のことが気になって、食事も喉を通らないほうなのだ。
そのため、おいしい寿しだとわかっていても、大将の目の届かない店の隅で、ひっそり「上寿司」などを食べることが多い。
味は落ちるのだろうが、余計な神経を使わないだけおいしく食べられる。
ただし例外もあって、たまたま大将が知り合いだったりすると、小心な私もリラックスして、好きなことを言いながら、好きなものを食べるのはいい気分だ。
特に、人におごってもらって、高いネタを好きなだけ食べるときは至福を感じる。
お金を払う人が、だんだん青くなって、気難しい表情になるのがわかると、よけい張り合いがでる。
いつだったか、テレビで「寿し職人が選ぶ日本一の寿し屋」というのを見たことがある。
〈どんなすし屋なのだろう?〉私は興味をもった。
東京都心にある、立派な店構えのおすし屋さんだった。
眼に光のある職人で、最後にこう言った。
「寿しは、愛ですよ」
〈そうか、そういうものなのか。そう言われれば、たしかに、そういう気もするナア〉
彼が言いたかったのは、ただ寿しを握って食べさせるだけでなく、カウンターを挟んで、客と職人との人間関係も含めて、「愛」だということらしい。
すし屋の職人にしておくのはもったいない。
万が一、怪我でもして、寿しが握れなくなったら、ぜひ、うちの病院の幹部になってほしいと思った。
作品名:一度、姓名判断してもらいたい 作家名:ヤブ田玄白