小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

魔女の時間 Walpugis and our world

INDEX|18ページ/18ページ|

前のページ
 

侑花とリシア13



 侑花の風邪はなかなか治らない。今日で三日目だ。
 食欲は多少戻りつつあるようで、パン粥の器から半分くらい中身が消えていた。

 侑花、動けそう?
「……何とか」
 じゃ、今度こそ特効薬を!
「……ええー……、ホントに大丈夫なの、それ?」
 大丈夫。魔女の歴史を紐解いても、これで風邪が治らなかった人間はいないのだよ?
「……リシアがそこまで言うなら」

 侑花は、リシアに体を委ねた。

「おおっと、これはキツい……」

 リシアは侑花の体を借り受けたが、足下がおぼつかない。
 ふらふらとベッドから降り、ふらふらと立ち上がった。

 でしょ? 無理しなくてもいいよ。もうすぐ治ると思うし。
「いや……このリシア、一度言い出したことは必ず!」

 リシアはふらつきながら、侑花の部屋の中央に立った。

「ついでだから、侑花にも見せてあげるよ」
 何を?
「この部屋の、本当の姿」
 へ?

 リシアが力なく腕を振ると、部屋の景色が一変した。
 家具はなくなり、ベッドも消えた。
 あるのは、プランター(?)がところ狭しと並び、侑花が見たこともない草花がびっしりと生えていた。
 そして、部屋の中央には、竈があった。天井から吊り下がる形で、鍋がぶら下がっていた。

 何と言うか。想像通りの魔女の部屋って感じだね。
「魔女ですから」
 
 リシアは、ふらふらしながら、プランター(?)から二~三、薬草と思しきモノを摘み取った。

「後はこれをすり潰して……っと目眩が……」
 だ、大丈夫?
「大丈夫! リシアは頑張ります!」

 リシアは、根性で足を踏ん張り、薬草をすり潰した。
 そして、部屋の隅にあったガラスの瓶から何やら黒いモノを取り出した。

 リシア、それは?
「ああ、これは……、ええとだね? 侑花は凄い嫌がると思うよ?」
 ……なんか想像出来たからいいや、もう……。

 色んなモノをすり潰し、混ぜ、鍋で火を通すこと約一〇分。

「出来ました……ゴホゴホ」
 何か、余計に体調が悪化してるような気がする。
「だ、大丈夫。これさえ飲めば……」

 目の前には、ビーカーに入った、緑とも黒ともつかない液体があった。

 これ、飲むの?
「そうです。飲むのです」
 リシアのままで飲んでもいい?
「ダメです。これは人間用に調合したから、戻らないと」
 ……ええー……。

 侑花は心底嫌そうに小さく呟いた。
 だが、風邪を治さないことには、美味しいご飯が食べられない。
 何より、リシアが必死(?)になって作った特効薬だ。
 無駄には出来ない。と、侑花は思った。

「じゃ、戻るね」
 はぁーい……。

 侑花が、自らの体に戻ると、部屋も元に戻った。

「……うう、辛い、くらくらする……」
 侑花、薬、薬。
「……ああ、これ?」

 侑花の手には、年期の入ったビーカー(?)が握られていた。

 飲んで飲んで。グイッと。直ぐ効くから。
「え、ええと?」
 大丈夫なのだよ。ちょっとは私を信じて欲しいのだよ~。

 リシアは泣き言を喚いた。

「よ、よぉ~し、こーなりゃヤケだ!」

 侑花は意を決し、鼻を摘まんで液体を飲み干した。
 ビーカー(?)は、侑花が薬を飲み終えると、すぅっと宙に消えた。

 ど、どうかな?
「……うーん、ちょっとくらくらが止まった感じ」
 とりあえず、ベッドに横になって。
「う、うん」

 侑花は、ベッドにぼさっと倒れ込んだ。

 後一〇秒、九、八……。
「何のカウントダウン?」
 五、四……薬の効果が出るまでの時間……二、一、ゼロ!

 突然。
 侑花の口から何かが飛び出した。

「おお! あれ! 体が軽い!」
 ほら、効いたでしょ?
「うん! ありがとリシア」
 いやー。それほどでも。
「ところで、さっき出て行ったのは何?」
 ああ……あれは、風邪の蟲だよ。
「風邪の虫……」
 要は、蟲下しなのだよ。基本的に、魔女が用いる薬は、悪さをする蟲を追い出す薬なのだよ。

 聞くんじゃなかった。
 うげぇと舌を出し、二度と風邪なんかひくもんか、と心に誓った侑花だった。