第五話 くらしの中で
六月のきもち その1
あと数日で水無月、六月だ。
まだ梅雨らしい雨は降らないが、空梅雨も嫌なもの。
やはりその時節らしく少しは雨の日があった方が良い。
その代わり気持ちが鬱陶しくなるほど雨に閉じ込められるのはやっぱり嫌だ。
最近私にとって個人的に良いニュースは無い。
同年代の人の誰かと話すと同じ事を言う。
実際良いニュースどころか、連れ合いが後一ヵ月の命だと宣告され、看取りは家でということで娘二人が介護休暇とやらを取って帰省しているという。
それを聞いて、連れ合いの看取りはもう10年近く前にし終えた私は、当時の私の気持ちと同じだろうと思った。同じことを経験しているとその気持ちは理解できるが、経験していないことは想像でしかわからないものだ。
あの時、あの声の調子で言われた言葉は今でも思い出すが、言った本人は親身に言ったことを理解してもらえず貴女との付き合いを切ったと弁解している。
辛くて腹立たしくて、とてもきつい言葉で反発したことが相手にとってはとてもショックだったらしい。辛いときはたとえ親身のつもりでも優しい言葉でないと癒されないものだ。
私はいくつもの耐えがたいことを経験してきたので、同じことが身に降りかかっている者にはきつい言葉は吐いたりできない。胸が傷むほど同じ気持ちになるからだ。
完
作品名:第五話 くらしの中で 作家名:笹峰霧子