とりのおかあさん
「お、バカがいるぞ! お~いバカ、九九できるようになったか?」
悪ガキたちがからかう先に、ひとりの少女がいた。
すると少女は怯えて、その歩みを速めた。
「そういえばああいうの鳥頭って言うんだって。俺の兄貴が言ってた」
「あ、ネットに載ってるよ。のーみそつるつるなの。見る?」
悪ガキたちが一斉に笑うと、少女は走り出した。
「出た~ヘンな走り方!」
栄養状態が悪いと思しき、背も低い、顔色もよくない少女が叫んだ。
「おかーさん!」
悪ガキたちは再び笑った。
「おまえはお母さんいないだろー!」
「おかーさあん!」
悪ガキたちは、面倒くさいので、いちいち少女を追いはしなかった。
少女は走った。
「もういやだ……もういやだよう」
少女は、泣きながらアパートの階段を駆け上がった。
「うわーん……おかーさん」
そしてぐずりながら言った。
「おかあ、さん、迎えに来てえ……」
* * *
「何で泣いているの?」
鳥のお母さんが尋ねました。
「うわーんお母さん……とっても怖い夢を見たの……うわーん」
小さな巣の中で、雛鳥の一羽がたどたどしく、人間の子供になっていた話、そこでいじめられていた話をしました。
「よしよし、もう泣かなくてもいいのよ」
鳥のお母さんがやさしく語ります。
「あなたは人間じゃなくて鳥だから、計算や走るのが苦手なのはしょうがないわね」
雛鳥は黙って聞いています。
「翼と違って、手なんてのはひどいのよ……誰かを叩いたり、悪口を書いて残したりそれはそれはひどいものなのよ」
兄弟たちも声をそろえました。
「そうだぞ! 俺たちの翼のほうが、ずっといいものなんだぞ!」
鳥のお母さんが明るく言います。
「みんな、鳥でよかったわね」
泣いていた雛鳥も、すっごくうれしい気持ちになって言いました。
「うん、私、鳥でよかった!」
「これから、空を飛んだり、みんなでお歌を歌ったりして過ごしましょう!」
「うん!」
* * *
転落死した少女の遺体と遺品は、孤児院から祖父母に引き取られた。
祖母が手持無沙汰に小さなノートをめくると、そこには拙い絵や文字が書かれていた。
その中には、「とりのおかあさん」が「なんでないてるの?」と言うところから始まる小さな空想があったが、祖母はただ面倒くさそうにノートを閉じた。
(了)