イタドリジャム(おしゃべりさんのひとり言 その92)
イタドリジャム
春と言えば、山菜のシーズンでもありますよね。
『虎杖』って読めますか? これは、『イタドリ』という植物の名前です。
どこにでも生えてるから、誰でも見たことぐらいはあるはずですよ。
山菜の一種として数えられて、地域によっては定番の食材となってることも。
でもそれ、不味いんです。好き嫌いあって、人気の山菜とは言えないと思います。
春になると、いろんな山菜がテレビで紹介されていますけど、ほとんど天ぷらで食されてませんか?
「どんな葉っぱでも、天ぷらにしたら食える」ってことでしょう。
実は僕も、それ好きなんですけど。天ぷらで一番好きなのはレンコンですが、山菜の場合は特別で、今の時期にしか食べられないから、別の欲求で食べたくなります。
春先に『フキノトウ』が草むらで顔を出しているのを見付けると、持って帰ってそれを天ぷらで食べます。本当に大好物です。
ほんのりどころか、バッチリとした苦み。天つゆのコクも加わると、もうたまらん。
他には『タラの芽』、山菜の王様とかって呼ばれてるけど、どういったところが王様なんだろう? これも天ぷらにしか、したことないんだけど。
定番の『ワラビ』は身近に生えてる印象で、かなり好き。旬を逃すと伸びて硬くなってしまう。
反対にいつでも採れるのは『ヨモギ』か。草団子より、ヨモギパンを焼くことの方が多いかも。
ついでに『タケノコ』って山菜かな? ふつうそうは呼ばないよな。
地域の青年団が管理してる近所の里山では、タケノコ取り放題だったんだけど、ここ数年、『無断採取禁止』の看板が立ってる。確かに誰も採らなくなった。以前だと、ご近所さんがお裾分け持って来てくれてたのに。
どれも毎年、春の楽しみですわな。
それで今年も、僕が採ろうと思ってた山菜が、冒頭の『イタドリ』なんです。
傷口にその汁を塗ると、痛みを和らげるというのがその名の由来。
タデ科の棒状の緑の茎に、かっこいい赤い斑点のトラ模様に例えられることから、『虎杖』と表記される植物だ。
最近は若い人でも、その名前は聞いた事があるらしい。でもそれは、漫画のキャラクターにこの名前があるからだってさ。
僕が言ってるイタドリは、河原や草むらだけじゃなく、線路脇や道路にまで、どこにでも生えてるやつ。特別な山菜感が全然ないけど。
子供の頃、おじいちゃんが2センチくらいの太さの若芽を採って、皮をはいでくれた茎を食べたら、衝撃の味だった。決して美味しいものじゃないけど、絶対に忘れられない味だったんだ。
それは超酸っぱい。それに塩を付けて食べさせられたけど、食えたもんじゃなかった。
誰でもこれを初めて味見する時は、必ずって言っていいほど、生の状態のはず。
それだと当然、印象が悪くなる。そこら辺に生えてるただの雑草だもん。
中学の頃は街なかに住んでたんで、イタドリが身近にあったわけじゃないけど、大量に採取したことがあって、家で母さんが油揚げと一緒に炊いてくれた。
それまで不味いという印象しかなかったのに(ちゃんと料理すれば、意外に食べられるものなんだ)って思った。
その時も生のまま食べたら、やっぱり酸っぱい。これをどうにかならないかって考えて、マヨネーズを付けてみたら、これが結構イケる。
その他のドレッシングじゃ全然ダメだけど、マヨだけは抜群に美味しくなった。
それからイタドリのサラダは、僕一人のお気に入りとなって、チャンスがあれば毎年食べたくなるのだった。
他には細かく切った茎を、ちりめんジャコ(シラス)と一緒に、めんつゆに絡めて油で炒めたのを、ご飯に混ぜるのもいい。
変化球では、酸味を活かしてジャムにすると、結構美味しくって、意外。
そのことでちょっと面白い話を聞いた。
日本人にはあまり馴染みがないけど、イギリスでは定番のジャムに『ルバーブ・ジャム』って言うのがある。
ルバーブって野菜は、同じタデ科の植物だから、ほぼイタドリジャムと同じらしい。
それなら日本でも(もっとイタドリジャムを普及させられるんじゃないか)って考えたんだ。←すぐビジネスチャンスと捉えてしまうヤツ
春になれば簡単に手に入るから、実家の仕出し料理屋でジャムにして、道の駅で売ろうって。
その名も『日本のルバーブ・イタドリジャム』
ところがどっこい。本家のイギリスにも、イタドリがあるって言うんだ。じゃ、イタドリジャムも存在してるのかって言うと、そうではない。
逆にイギリス国民全員が、忌み嫌うほどの存在なんだって。
どういうことかって言うと、日本ではどこでも定番の植物だけど、イギリスにはもともと生えていなかった植物で、外来種ってわけ。
日本からイギリスに持ち込んじゃったのが、かの有名なシーボルト先生。
繁殖力が強いから、緑化に役立つとでも思ったのか、植えた途端に大繁殖して、イギリス全土に広まった。
それだけならよくある話だけど、イタドリって若芽の時は柔らかいのに、大きく伸びると木質化して、結構固くなる。
日本じゃ特に問題にならないけど、石畳や石造りの建物が多いイギリスじゃ、そのわずかな割れ目にまで生えて、石積みを壊してしまうんだって。
だから庭にイタドリが生えてると、その土地の資産価値まで下がってしまうんだそうだ。
そんなのを好んで食べる人なんかいないよね。
ルバーブジャムをネットで検索したら、きれいな赤色してた。美味しそう。
それに比べてイタドリジャムは黄土色で、不味そう。
これじゃ人気は出ないな。
イタドリって本当は優秀な食材なのに、絶対イメージで損してるね。
つづく
作品名:イタドリジャム(おしゃべりさんのひとり言 その92) 作家名:亨利(ヘンリー)