徒桜
3
「結婚式はしない」
「御持たせで失礼ですが」
と、手土産の「東京銘菓」を差し出す義母が首を傾げる
黒縁の眼鏡越し、小(こ)さい目を「点」にする義父同様
彼女が寄越す「東京銘菓」を受け取る自分自身、上記の発言は初耳
「??はい??」
当然、聞き返す自分の手から転げ落ちた
「東京銘菓」を拾い上げる彼女が上向きのままの、空(から)の手の平に戻す
見れば
義父の手から転がった「東京銘菓」を拾う義母が
其のまま渡すと思いきや丁寧に包装を解いた後、其の手の平に置いた
正に衝撃
此れぞ「熟年夫婦」の為せる業なのか
感動所か、羨望の眼差しを向ける自分の視線に
仄(ほの)かに恥じらう(可愛い)様子の義父等、御構い無しに
「結婚はする」
「結婚式はしない」
反応が無い自分達に繰り返す彼女に
適当に頷く自分は「小者」だが自他共に認める「御調子者」だ
故に「氷の女王」を見事、射止めた「御調子者万歳」
「御調子者」序でに再度、悪戯心で「東京銘菓」を転がす
途端、手を伸ばす彼女が無言で包装を解き始める
「!!此れは!!」と、小躍りしそうになるも
其のまま、「東京銘菓」を頬張(ほうば)る彼女の様子に一気に消沈した
成る程、如何やら「要らない」と思われたようだ
「、っぷ」
堪え切れず吹き出す、一部始終を目撃した義父を上目遣いで見遣る
直ぐ様、咳払いと同時に自身の「東京銘菓」をずい、と寄越した
何とも愛おしい(笑)
慎んで受け取るも内心、ほくほくの自分に
不敵な笑みを浮かべる義父が果物籠の中身、八朔に手を伸ばす
「?!真逆?!」
等と、何故か寸劇(コント)的な事に興じる義父と自分を置いて
義母は彼女の「発言」の真意を訊(たず)ねる
「本当に?」
「本当に結婚式、挙げないの?」
当然の、疑問だ
自分自身、結婚式は女性の「憧憬(しょうけい)」だと思い込んでいた
「何か「理由」があるの?」
明白(あからさま)では無いが、何かしら言いたげな顔を此方に向ける義母に
「彼は関係無い」と、彼女は頭を振る
「本当に?」冗談めかしで質(ただ)す自分に対しても
只管(ひたすら)、頭を横に振るが其れでも「理由」がある筈だ
「隠し事」とは水臭い
愈愈、押し黙る彼女を誰が促がすとも無く時間が過ぎる
元元、口数が少ない彼女相手に待つのは苦じゃない
義母は気を揉む態度だったが義父は自分と同じ気持ちのようだった
然(そ)うして漸(ようや)く、彼女は「理由」を語り出す
「人前は苦手」
「招待する恩人も友人もいない」
「何より結婚式に掛かる資金を今後の生活費に充てたい」
至極、真っ当な言い分のようで
至極、滑稽だ
「氷の女王」は女(おんな)子どもには優しい
「人前が苦手」と、宣(のたま)うのなら御互い様だろう
「資金」に関しては目下、奮闘(貯金)中だ
諸諸を伝えたくて覗き込む、彼女の冽(れつ)を装う横顔
其れが物語るモノ、此れは「鉄壁」の構えだ
「氷の女王」は氷塊の如く、頑(かたく)なだ
手も足も出ない
喩え、手も足も出たとしても無理強(むりじい)はしたくない
「白旗を掲げる」自分の視線に多少、心苦しいのか
翳(かげ)る睫毛を伏目気味に彼女が「核心」を白状する
「一番、神前で誓うのが嫌」
「、ああ」
図らずも「、ああ」と、吐き出す自分
顔を見合わす義父、義母も如何にか納得するように頷いた
何故なら彼女は「無神論」者だ
所か、嫌悪していると言っても過言では無い
結果なのか
原因なのか、知らないが
彼女曰く「彼(あ)れは何もしてくれない」と、子供心に悟ったそうだ
「彼(あ)れ」と言う、言い回しは過激だが
其処迄の嫌悪を抱く、「何」があったのかは未だに聞けていない
聞いた方が良いのか
聞かない方が良いのか、其れすら分からない
「勿論、私一人では決められない」
心底、済まなそうに会話を終えた彼女に自分は神妙な面持ちで頷く
「結婚」は詰まる所、「家同士」の繋がりだ
此の世の中
縦の繋がり然り
横の繋がり然り、家族の繋がりが大事で大切だ
だが生憎、自分の両親は自分に関心が無い
と、言えば語弊があるが
「御前の人生、御前の好きなように生きれば良い」
早早、此の背中を押されたのも事実だ
「家(うち)も大丈夫」
暢気(のんき)に告げるも予想だにしない返答だったのか
数分前の再現映像なのか、首を傾げる義母
黒縁眼鏡越し、小(こ)さい目を「点」にする義父に加えて
目を白黒させる彼女に揚揚と冷徹(ドライ)な親子関係を説明する
「「口出し」も「手出し」もしない、放任主義の両親なので」
「口出し」も「手出し」もした記憶は
後にも先にも「自転車の乗り方(補助輪外し)」以外、思い出せない
然(そ)うして、にかっと笑う自分に
笑い返してくれたのは義父、唯一人だった
何はともあれ、任務(ミッション)「2」も完了だ!
此れ以上の任務(ミッション)に就いては「要相談」だ!
良いね?!