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ある日、お釈迦様が極楽の蓮池のふちをぶらぶらと歩いていると、その蓮池を通して下界の様子が目に入りました。
　冬空の下、一本の橋の下に浮浪者がいます。いい加減な生活をして勘当され、仕事もまじめに取り組まずたびたび首にされ、女たちを騙して結婚しては離縁され、年を経て浮浪者に至るも浮浪者仲間からも除け者にされ、たったひとりで震える状況になっていました。まとっているぼろも、少なくなった毛髪も、いかにも寒そうです。
　という男ですが、善行をしたこともあります。それは、小さな毛虫を踏み殺しかけて思いとどまり、命を救ってやったことでした。
　それを思い出したお釈迦様は、毛虫の体から毛を抜きその毛から毒を抜き、男に与えようとします。
　が、お釈迦様は、そういえば毛虫をただ丸腰の芋虫にしてしまってはこの命が危うい……と思い直し、頭の毛だけを残してそれを角に変え――これがアゲハチョウの幼虫です――、それ以外の全てを男に与えました。
　こうして男の体毛が濃くなったのを見たお釈迦様は、満足そうな顔をしながら蓮池から立ち去りました。

（了）