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魔法少女は枕営業から始めなければならない【プロローグ】

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小学生のように小柄な少女が、総理大臣が座るような背もたれの大きい立派な木製椅子に、どっかと腰掛けている。金色の長い髪は先端がわずかにカールしている。真っ黒なゴスロリが愛らしい丸顔によく似合っている。
「ゲリラの首領である陛下、夢枕をオンにするんですよ。」
裾の長い濃紺メイド服を着たショート黒髪の女子。純白のヘッドドレスを光らせながら、その下にあるやや細い目をさらに横に伸ばしている。
メイドは偉そうな幼女の横に立っている・・・のではなく、横たわっている。傲岸不遜オーラを撒き散らし捲っている。
「めんどうじゃ!メイドのくせに、また妾をこき使うつもりか。」
「もちろんこき使いますとも。陛下はメイドに使用されるために存在するのですよ。二ヒヒ。」
「うがーっ!アタマに来たぞ~!ポチっ。」
「よ~くできました。これでただの枕がON枕になりました。ON枕は人間の邪念を受け入れて、夢枕モンスターになります。二ヒヒ。」
メイドの目は横になったままで、口だけが笑っていた。

「いいなあ、魔法少女アイドル、マジドルのポロンちゃん。今度握手会に行くからね。ブチュー。」
バンダナ巻いた、デブな30才ぐらいのメガネ男子。腹を壁にこすりつけて、全身ポスターの女子の可憐な薄い唇にキスしている。
水着姿の女子は腰を曲げて、茶目っ気たっぷりに、Vサインのポーズでウインクし、頭には小さなハットを乗せている。よく見ると、ハットの上と下にフリルのような襞が付いており、その胴体部分には白いシーツのような布が巻かれている。形状的には枕に酷似している。
ポスターはあちこちで小さな波を打っているおり、キスはすでに無数に行使されているようで、特に水着部分の汚れがひどい。男子はポスターへの凌辱を終えると、ベッドにダイブした。
「ポロンちゃ~ん、ボクを全力で愛してもいいんだよ~。」
気持ち悪い声を出しながら、男子は抱き枕を両腕でハグした。抱き枕にはポスターと同じ顔が貼られており、こちらもかなりの恥辱感に溢れている。
『ブチュー、ブチュチュー、ブチュチュチュー。』
ブタが発情したような音を立てて、抱き枕の掃除機と化した男子。
その時、スーッと黒い影が抱き枕から出てきて、男子の前に立った。影は煙のように漂いながら、徐々に何かを形作っていき、やがて柔らかな流線型になっていった。
「あれ?何だ、これは。女の子みたいだぞ。映像やバーチャル、フィギュアなんかじゃないぞ。ゴクッ。」
喉ごしよく口に溜まった唾液を嚥下したデブ男子。
『う、う、う。』
黒い影は声とも唸りともつかぬ音を出して、頭部らしき場所から小さな光を2つ放っている。
「こ、これって、まさか、ネットで噂のアレ?」
『ガオ~!』
黒い影はデブ男子に覆いかぶさり、男子を喰うように蠕動運動している。
「ぐあああ~!」
男子は息ができないのか、苦しんでおり、すでにからだの一部が欠落しているようにも見える。
「待て、そこまでだ、夢枕モンスターよ。魔法少女省が規制する!」
「ま、魔法少女アイドル!通称、マジドル!が助けに来てくれたんだ!やっぱりマジドルはヒロインだ!」
突如、デブ男子の部屋に入ってきた女子は、デブ男子の声には無反応。
赤いマントに、3つの大きめボタンが付いたピンクの厚手半袖シャツに、膝上30センチのオレンジ色ミニスカート。腰には大きな赤いリボン。黒い靴の先は小さく尖って反っている。桃色のニーソにはハートマーク。小さい白帽子は、斜めに頭に乗っており、上下にフリルのような飾りが付いており、まるで枕のようである。
顔は帽子でよく見えないが、知性溢れる眼光が眩しい。紫色の長い髪が風もないのに靡いている。
『ガアア~!』
夢枕モンスターはデブ男子から離れて、女子の方に向かう。
「魔法、枕草子!春はあけぼの、筋力解放!」
女子は大きな声を出すと共に、ステッキのような物を高く掲げた。よくみると、帽子と同じように、両サイドにフリルが付いており、真ん中がつかめるように凹み、さらに顔写真のようなものが貼られていることから、形状的にはほぼ小さめの抱き枕である。
女子の足は筋肉が急に盛り上がり、脈打っている。女子はそのまま、夢枕モンスターに蹴りを入れると、モンスターは悲鳴のような音を出して、消滅した。
女子は枕型帽子を手に取って、携帯電話のように話しかけた。
「夢枕モンスターの討伐完了。しかし、被害者は絶命した模様だ。後はよろしく。」
女子が消えた後、警察官がやってきて、デブ男子をいずこかへ連れて行った。