悪の秘密結社X団
ここは、悪の秘密結社X団の会議室。ボスと幹部たちが、メンバー増員のために話し合っているところである。
このボスも幹部たちも最低ひとつの特殊能力を持っており、メンバーにもこれが求められる。
よってX団は人材獲得に苦労し続けてきたが、この時も時間とお菓子とソフトドリンクを消費するばかりでこれだという名案が飛び出すことは無く、たまりかねたボスがテーブルを叩いた。
「一度みんなでラジオ体操第一をしよう」
そしてボスと幹部たちがラジオ体操第一を終えると、息を切らしながら怪人マリトッツォが言った。
「確証が無いから言っていなかったのですが、私の知り合いに、異次元を操ることができるという噂のある若い女がいます」
ボスが眼光を鋭くした。
「続けたまえ」
「はい……この女は、何でも無くしてしまうのです。そしてもう二度と見つからないのだとか」
「それはただのオッチョコチョイじゃあないのか?」
ボスを始めとするみんなを代表して怪人フラフープがツッコむと、怪人マリトッツォは答えた。
「それが尋常なレベルではないので、『あいつは異次元と繋がっている』とまことしやかにささやかれるようになったのです。私はこの女が、ひょっとすれば死体処理、証拠隠滅などに役立つのではないかと思うのですが、いかがでしょうか」
ボスは怪人マリトッツォを見据えた。
「……顔はカワイイの?」
「かなりカワイイですよ」
と、再び怪人フラフープがツッコんだ。
「おいマリトッツォ辞めろ! ボスも辞めて下さい! 顔採用はこの間懲りたばっかりじゃないですか」
「そうだった」
ボスは大いに反省した。
「……が、しかし、だ。人材難もあり、マリトッツォの意見も一理ある。怪人アナザーディメンションとして迎え入れるべきかどうか、とりあえず面接の機会を与えてみようではないか」
幹部たちは顔を見合わせてから、声をそろえた。
「ボスがそうおっしゃるなら」
ボスは、怪人パソコン君と怪人マリトッツォに向かって言った。
「よし。それでは私のスケジュールを見て、来週のどこか空いている日時で調整しておいてくれたまえ」
そして翌週、約束の日時。
「……女が来ない!」
ボスがわめいた。
「おいマリトッツォ! いったいどうなってるんだ!?」
「も、申し訳ありません。間違い無く日時と場所をメールで送ったんですが」
ボスは歩き回りながらわめいた。
「メールを無くしたなんてオチ絶対に許されないぞ!」
「全くです」
「いいから電話しろ!」
「は、はい!」
スマートフォンを取り出して、怪人マリトッツォがタップする。
「……あ、もしもし? ……」
ボスは溜め息を漏らした。
「ふう……全く、本当にどうしようも無い組織だな……ブツブツ」
「ボス、あのう……」
「何だ!?」
困ったような怪人マリトッツォの目と、ボスの目が合う。
「警察の落とし物係が出ました」
ボスは叫んだ。
「全然アナザーディメンション行ってない!」
しかしその後結局顔採用し、ほどなく悪の秘密結社X団は壊滅した。
(了)