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天空天河 一

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三 誘われる処へ



 藺晨の夜具の中に包まれて、梅長蘇が目覚める。
「目覚めたか。」
 そう言うと、藺晨は長蘇の脈を診た。
「私は藺晨、この童子は飛流と言う。
 、、お前の脈は、、、酷く弱いな、、。
 だが、火寒の毒は抜け、体の白い毛は綺麗に無くなったぞ。良かったな。お前が望んでいた事だろう?。」
 長蘇は頷く。
「、、だが、お前の、、、脈は、、何と言うか非常に、、、。
 全く!、飛流め!、お前と来たら、この者からどれ程取ったのだ!。」
 飛流は膨(ふく)れて、外へ消えて行った。
「、、、、言わずとも、分かっているのだろう?。
 飛流は『魔』だ。お前は飛流との承允で、その体を得たのだ。
 だが承允で、お前はその武功と寿命を、飛流に渡したのだな、、、。」
「、、、武功と寿命を、、、。」
 長蘇はちらりと外を見た。
 飛流が成長したのは、長蘇の武功と寿命を、得たからなのだ。
「二日も寝ていたのにも関わらず、疲れて起きられず、私と話すのも辛い筈だ。脈は酷く弱い。飛流に、ほとんどの内力を、奪われたからだ。
 火寒の毒は粗方抜けたが、残念ながら、寒毒と、僅かだが火寒の毒が、まだ体内に残っている。気の毒な事だ。火寒の毒が、相当深かったのだな、、。
 お前の武功と、飛流の魔力を以ても、これが限界なのだろう。
 
 、、、誠に言い難いが、お前は長生きは望めぬ。
 だが、飛流を恨むなよ。飛流とて、取りたくて取った訳では無いのだ。
 飛流は、姿通りの知能は持たぬ。恐らく何を取るべきかの、酌量も出来ぬのだ。
 その代わりに、お前の望む能力を、飛流は持っている筈だ。まぁ、見た目には分からぬだろうがな。」
「そう、、、か、、。
 、、藺晨、私は、この先、どれ程生きられる?。」
「、、、む、ん、、十年、、と言う所か。」
「十年!、、、。」
「長いと思うか、短いと思うか、、、。」
「、、、十年あれば、、、、十分だ。」
 長蘇の口角が、上がる。
《自分の命が十年と聞いて、笑うとは、、。》
 この目の前の男が、どんな生き方をしてきたのか、何をしようとしているのか、藺晨の興味が湧いた。


 長蘇が起きられる様になる迄、二人は互いの身の上を語って、過ごした。
 今は梅長蘇と、名を変えているが、嘗ては武門の名家、林家の男子として生まれ、騎馬隊小隊を任され、年若いながら、作戦会議などにも発言力があったと。
 藺晨が『信じられぬ』という顔をして、長蘇に食ってかかる。
「お前、馬鹿か?。
 こんな目に遭わされているのに、何故国の為になぞ、動けるのだ。、、損してるんだぞ。」
「、、バカダト?、、軍を担う者とはそういうものなのだ。そういう家に生まれて、そういう教育をされたのだ。国の存亡に命を惜しむなぞ、男では無い。ただの下級の一兵卒とて、国に命を捧げるという意志は、私と変わらぬ!。」
「こんな虚弱体質になって、余命も限られる。なのに何ができると?。あ?。」
 藺晨の真っ当な質問に、長蘇は白い毛の無くなった、自分の手を見て、言った。
「例え短くとも、林殊では無いこの体があれば、如何様にも出来るさ。
 私と林殊、何も共通点は無い。誰も林殊が蘇ったとは思うまい。
 それが一番の要なのだ。
 私は梅嶺で、死んだ事にはなっているが、林殊が生きていると知られ、探られれば、僅かに残った仲間の身や、危険が及ぶ。やっと逃れた遺族がまた、狩られでもしたら、死んでいった仲間に顔向けが出来ぬ。」
「、、、お前、案外、楽天家だなぁ、、、。自分一人、表に立って、一体、何か出来ると?。」
「今、朝廷は『魔』に支配されているのだ。『魔』と契約をした者達が、自分の栄華と引き換えに、国を売ったのだ。何も知らぬ民が害を受けている。
 祖国が『魔』に喰われる未来なぞ、見たくない。
『魔』を、、『魔』さえ封じる事が出来れば、、梁の民は皆、救われるのだ。」
「『魔』が何処に居るのか、分かっていると?。
 だから飛流は、お前の望みで、『魔』を吸収出来る様になったのか?。
 今までは何の力も無かったが、、。
 飛ぶだけしか能の無い奴だった。」
 飛流にどんな力が備わったのか、気になって、藺晨は飛流を、魔道の力で探ってみたのだ。

「私は梁の公主の息子だった。子供の頃から、皇宮に出入りが出来たのだ。
 皇宮の書坊の奥で、琅琊塞の『至宝』の記載を見たのだ。研究をしている者もいて、、詳しく研究された書簡があった。
 皇宮から、持ち出す事は出来なかったが、面白かったので、すっかり全部覚えてしまった。
 、、、まさかこの様な事態になり、琅琊塞の『魔』に縋(すが)る事になろうとは、、。」
 そこで、藺晨は思いに耽った。
《琥燁玉を開き、指示通りに、この石柱の岩屋に行こうと決意した日、私は従兄弟の藺貞に、事の仔細を伝えたのだ。
 藺貞が、琥燁玉の真実を、書き残してくれたのだろうか。》
 藺晨は、懐かしさに、涙がでそうになった。
「琅琊塞は、、どうなっているだろう、、、。
 藺貞に、琅琊塞の後の事を託して、私は石柱に上がったが。私の従兄弟は、流石にもうこの世には、居ないだろうな、、。
 藺貞の子孫が、琅琊塞を守って居るのだろうな。面差しは藺貞に似ているだろうか、。あいつは顔が長かったのだ。あははは、、。
 知っているだろう?、琅琊塞。」
「、、、琅琊塞か、、。」
 長蘇がどこか、思わせ振りだったが、藺晨は気にせずに話した。
「行ったことはあるか?、良い所だぞ。」
「下界に下りれば、何れ分かる事だろうが、、。
 、、琅琊塞は、、、、もう、存在しないのだ。」
「なっ!!。嘘だろう!!。」
「、、、随分、前の事らしいが、、。
 琅琊塞は、藺一族で引き継がれて、代々守られてきたが、藺姓では無い者が幅を利かせ、勝手放題をして、遂には消えてしまったのだ。
 塞の者から伝わる話では、閉鎖する折りには、書蔵物は、最盛期の十分の一も無かったのだと、、。大事な書は、皆、売られて金に変えられていたそうだ。
 琅琊塞が消え、あれ程の蔵書が散り散りになる前に、時の皇帝が皇宮に押収したのだと、、、。
 藺晨殿の言う、藺貞の名には覚えがある。
 私が琥燁玉の『魔』について読んだ書簡は、藺貞が書いたものだった。
 藺晨殿が藺貞に伝えた話が、書簡になり、売られずに残り、その後皇宮に納められ、よもや私が読む事になろうとは、、、。」
 藺晨はじっと、言葉を挟まずに長蘇の話を聞いていたが、気になる事もあり。
「長期、琅琊塞が無くなったのは、いつの頃か、分かるか?。」
 「はっきりとは知らぬのだが、、、七、八十年前になろうかと、、、。琅琊塞は、書生の中では、伝説の地になっている。」
「、、、そうか、、琅琊塞が、、、。」
 藺晨は、ぽつりとそう言うと、立ち上がり、外を見に岩屋の縁(へり)に立ち、暫く動かなかった。
 今は無き、琅琊塞に思いを馳せて居るのだろう、と、長蘇は思った。
 きっと藺晨は、呪いが解け、この岩屋から出られたならば、一番に、琅琊塞に戻ろうと思っていたのだ。嘗ての仲間は居なくても、その子孫たちが、友の面影を彷彿とさせただろう。
 帰る処(ところ)が、無くなってしまったのは、長蘇も藺晨も、二人共に同じだった。
作品名:天空天河 一 作家名:古槍ノ標