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カワセミ

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カワセミ
 「チッピー」鋭い鳴き声を耳にすると、すかさず音波の発信源である川面の方に目をやる。その方向を確認する視野の内には、水面すれすれをまさに弾丸のように滑空する光の球を認めることができる。それも、朝夕の斜光にうまく照らされる条件では、まるで異次元から突如として現れたかのようなエメラルドグリーンの光球が空間を切り裂くように走っていくのである。角度によっては、コバルトブルーやオレンジなどのきらめきも加わり、宝石のごとく光を跳ね返している。飛ぶ宝石とはよく言ったものだ。また、他に例えるなら、きらめき光る最新鋭の戦闘機だ。滑空、旋回、ホバリング、まさに高性能マシーンの機能を持った宝石である。
 この鳥に魅かれたのは、近くの川でたまたま出会ったことがきっかけであった。図鑑などでは目にはしていたのでが、そんなに身近に存在する鳥だとは思っていなかったこともあり、初めての出会いはちょっとした感動だった。護岸をコンクリートで固めた、大きな水路のように化した川にまさかあのような鮮やかな鳥が住み着いているとは思いもせず、驚きでもあった。初めての遭遇時は、ほんの瞬間的なものであったが、そのうち遭遇を目的に周辺を歩くようになったこともあり、飛翔だけでなく水中へのダイビングなどの場面も観察できるようになった。時に、ダイビングの後に木の枝先に戻った嘴に銀色にはね踊る小魚を認めた時などは、しばらく興奮状態が続いた。また、川の流れからかなり離れた木の枝で2羽が互いに鳴きあう光景にも出会った。警戒を伴ったいつも耳にする鳴き声ではなく、甘さをも含んだ優しさを感じる声からして、おそらく、求愛の最中であったのだろう。新鮮な貢物は済んだのかこれからだったのかは定かではない。
 このカワセミとの出会いをきっかけにして、鳥への興味が広がり「バードウオッチング」なるものに目覚めることになった。そして、それまで山の景観しか撮らなかったレンズの向く対象も鳥たちに向かった。高倍率のレンズを付けて鳥を追った。もちろんカワセミは、その一番の対象である。それをを被写界に捉えた時は、気持ちを静めることに努力しながらシャッターに指をかけたものである。全く満足には至るレベルのものではないが、何枚か撮れた。しかし、この撮影の行為は、著名な動物写真家による写真集を見たことでその意欲を失った。鳥の大きさ、色の鮮やかさ、生態がわかるいろいろな行動場面、なかでも川面中空におけるホバリングや水面下での採餌の瞬間が克明に捉えられているのを見て驚いたと同時に嫌になったのだ。もちろん、嫌になったのは、自分が撮っていた鳥たちの写真であり、稚拙な撮影技術と行為そのものに対してである。あっさりとやめた。写真はプロのを見ればいい、と。
 それからもう何年も経つ。鳥への関心はなくなったわけではないが、よく行く散歩先で目にする鳥も見慣れたものが多くて、さほど感動することもなくなった。しかし、先日出向いた公園の小川で久しぶりに遭遇したエメラルドグリーンの小さな戦闘機からは、魅せられ始めた当初の感動がよみがえった。おまけに、その直後には、見事なダイビングと踊りはねる銀魚を嘴にしっかりとくわえた勇姿をじっくりと観察することができた。
作品名:カワセミ 作家名:ひろし63