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虚実の境目

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虚実の境目
休日の午前は犬を連れて近くの森の中を歩くことが多い。気まぐれながらも、歩くコースは幾通りか決まっていている。その中でも、気に入ったロケーションの池がある。治水用に作られた小さなダム湖のような池ではあるが、林道から杣道にすこしばかり入った林の中にあって、とり囲む林とその池畔に茂る丈の長い草群、水面より突き出た枯れ木の幹などがとてもいい雰囲気をもっている。最初に見つけた時には、対岸近くに突き出た枯れ木にカワセミが現れるのを願い、しばらく身を潜めて待った。それほどその組み合わせがとてもマッチする池である。
その日はいつもより少し早くその池に行った。早起きは3文の徳とは言うが、朝早い池の光景は3文どころではなかった。(とはいっても3文の値打ちは知らぬが) 朝の斜光を浴びた草木の輝き、おまけにかつてこの場で願った光景である水面近くの枝にカワセミがその鮮やかな体を輝かせて止まっている。水面に目をやると見事なまでにくっきりと林の木々と空が映っていた。水際では、その上方に生える草木の生え際から真下に同じ草木が生えている。水面の林全体も色濃く、また空は空そのものの色。まるで虚実の区別ができない。じっと眺めていると吸い込まれそうな大きな空だ。まさに本物のような空間世界が広がる。
ときおり水鳥たちが引き起こす波紋が虚を知らしめてくれる。対岸でカワセミがダイビングをした。水しぶきも光っていた。
悪くない。池からの帰り道々朝に感謝した。
そして思った。自分もまた虚実が入り混じった世界にいることを。
思想、宗教、イデオロギー、政治、ニュース番組、ドラマに映画、それに科学、etc.etc.
自身に問いかけてみる、「虚実の区分けは大丈夫か?」。
そして思う、虚に住まうも悪くはないか?
人生は案外狭間で行ったり来たりなんだろうな? などと。
しかし、境目はいつも知っておきたい気もする。必要な時に水鳥がいてくれるとは限らないから。
H21.1
作品名:虚実の境目 作家名:ひろし63