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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
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烏龍茶ちゃチャ(おしゃべりさんのひとり言 その80)

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烏龍茶ちゃチャ



「ほら、どう?」
と僕が聞く。

「うぁ、おいし~ぃ♡」
と答えたまだ小学生だった娘。

そこは台北市の街かどにある普通のお茶屋さん。
お茶が飲めるカフェみたいな所じゃなくって、茶葉の卸売をしているお店だ。

昔、台湾出張をよくしていたころ、仲良くなったホテルのフロントの女性の転職先が『一茶一坐(イーチャイーツォ)』と言うカフェだった。
その「ちょっとお茶で一服」みたいな意味の店名も気に入った。
で、そのお店によく顔を出してたんだけど、そこで僕は高級烏龍茶にハマってしまったんだ。
日本ではまだ「烏龍茶はサン○リーのこと」って言われていた時代に、本物は「酸っぱくないじゃん!」って知った。
ちなみにその当時、中国や台湾で「サン○リーのペットボトル烏龍茶が、大人気で定番茶になってる」って情報を、テレビ番組で見たことがあるけど、絶対にウソだと思う。スポンサーの策略だろね。台湾の人は「あんなのお茶じゃない。渋すぎる」って言ってた。
現地の仕事仲間はよく、マイボトルにお茶を入れて、オフィスに持って来てるんだけど、その透明のボトルの内側に小さなカゴが取り付けてあってね、そこに茶葉を入れてお湯を注いでいるんだ。
(ペットボトルのお茶を買わずに、自家製のお茶か)って思ってたけど、驚いたことに、空になるとまたウォーターサーバーからお湯を注ぎ足してる。
(え?出がらしでまた淹れるの?)って半笑いで思ってた。
でもこれが常識だったんだ。
日本茶なら、一回淹れた茶葉は捨てるでしょ。普通は。
ところが烏龍茶は風味が強いんで、何回でも繰り返して淹れられるものだったんだよ。
ほとんど透明になっても、お茶の風味はしっかり出てることに驚きだ。
この感覚だと、濃いサン○リー烏龍茶なんて、センス無しだったのかもしれない。

で、僕はその行き付けのカフェで、烏龍茶の淹れ方をレクチャーしてもらって、それが大好きになったってわけ。
その習った手順ていうのは、・・・詳しく説明するよ。
まずお湯を沸かす。温度は沸騰した100℃。
茶壷(チャフウ)と言う急須の外側から、そのお湯をかけて温めてから、茶葉を規定量投入する。
そして1回目のお湯を注ぐ。でもそれはすぐに捨てる。これは茶葉を洗うため。
(そうしないと汚いってことなのかな?)って思ったけど、最初の雑味を取り除くんだって。
2回目のお湯は、茶葉が浸かる程度にほんの少しだけ。
茶壷に蓋をして1~2分蒸らすと、葉っぱが広がる。これが重要なんだ。
烏龍茶の製法の手もみ工程で、茶葉が丸まって粒状になっている。この粒の形でも品質に違いがあるようだ。
その粒が開いて葉を伸ばした後に、たっぷりとお湯を注ぐ。するとすぐにでも飲めるらしい。
茶壷と同じ容量の、茶海(チャカイ)と呼ばれるピッチャーに全量移す。最後の1滴まで。
こうすることで、茶壷(急須)内の茶葉を一旦休ませる。(抽出を止めるってこと)
お次は日本酒のお猪口のような縦長の聞香杯(モンコウハイ)と言う小さな素焼きのコップに、一杯目を注ぐ。
今度は、凄く小さな湯飲み茶碗の茶杯(チャハイ)で、聞香杯に蓋するように裏返して被せる。
そして中のお茶をこぼさないように、一気に上下反転。
その茶杯の大きさは、ちょうど聞香杯の容量と一緒で、ゆっくりと聞香杯を持ち上げると、黄色いお茶が茶杯に現れる。
何のためだか知らないけど、面白い手順だ。
そこですぐに飲むんじゃなくて、まずは空になった聞香杯の香りをかぐことを勧められる。
これが烏龍茶作法の醍醐味なんだけど、その香りって、なんとも言えず、すごくいいんだよ。
日本茶や紅茶では決して楽しめない、まさしく芳醇な香り。
「バニラのような」と表現する人もいるけど、それとはちょっと違う癒しの香りだね。
十分香りを堪能したら、ついに茶杯のお茶を飲む。
面倒な手順で十分冷めてるし、茶杯が小さいから、一口だ。
もう感想は書かなくてもいいでしょ。

茶杯が空くと、わんこ蕎麦のごとく注ぎ足してもらえる。
聞香杯を使うのは初めの一度だけで、あと何杯も茶杯でお代わりの繰り返し。
茶海(ピッチャー)が空になれば、また沸騰したお湯を茶壷(急須)に足して茶葉から新しくお茶を抽出する。
そしていつまでも茶会は続く感じ。
僕はドライフルーツを一緒に食べるのが好きです。特に乾燥イチジクとか砂糖漬けの蓮の実とか。

そしてついには自宅でも楽しめるように、本格的な茶器のセットを、烏龍茶の本場、中国の福建省で買って来た。
一式を載せる茶盤(チャバン)も付いた、まるで『ままごとセット』みたいなやつ。
だから、いつも中国、台湾土産は、もちろん烏龍茶を買ってきます。
最初はお土産物屋さんにあったのを買ってたけど、全然おいしくない。高いけど安物だな。
そこで、『一茶一坐』の彼女に相談して、紹介してもらったのが冒頭の卸売店だ。
観光客なんか来ない個人経営のお店だけど、日本にも輸出してるから、店主は片言の日本語で説明してくれた。

ところで、台湾って温暖な島だけど、雪が降るって知ってる?
富士山より高い山もあるし、高地じゃ積雪もするんだよ。
台湾茶は、そんな標高で栽培されていることが多いんだ。
それで名前が付いた、かの有名な台湾産『凍頂烏龍』や『高山烏龍』は、本場、中国福建省の『鉄観音』ていうブランドにも負けす劣らず。
地理的には、台湾海峡を挟んで双方は隣同士だからね。
何十年に1回くらいは、台北市にも雪が降ることもある。
そんな年の茶葉の出来は、最高品質らしいんだ。ものすごい高値で取引される。

2016年。台北市に雪が降った。
僕はその年の夏、烏龍茶を買いに台北のあの卸売店に、家族を連れて行った。
いろんなグレードの烏龍茶を試飲させてもらって、お腹が茶でちゃぷちゃぷ。
もし、中国や台湾でお茶の販売店を見付けたら、必ず試飲コーナーがあるから試してみて、無料だし。
それで娘が気に入った100g・9900円(日本円)の最高級茶葉を、1Kg購入した。
妻もそれを気に入って、思い切って約10万円支払った。
乾燥した茶葉1Kgって結構な量だ。スーツケース内が茶々茶でいっぱい。
さらにジャスミンティーや菊花茶なんかも、いっぱいオマケでくれたよ。
50gずつ真空パックしてもらって、今も少しずつ自宅で楽しんでるけど、そこで気付いたのが、なかなか減らないってこと。
もうあれから5年経つけど、やっと半分使ったくらい。
家にお客さんが来たら、その烏龍茶を普通にお茶として、チャチャチャッと淹れると、ほとんどの人がその味に気付いて、話が膨らむ。
たまに妻が、仲のいいママ友とお茶会をすることもあるけど、わちゃちゃちゃと盛り上がってる。

まあ、毎日飲むわけじゃないけど、味が濃く出るから、1回に使う茶葉がほんの少しでいいんだ。
しかもその日の内なら、何回もお湯を足して使えるし、ペットボトルに詰め替えて、冷蔵庫で冷やしておいてまた飲める。
これ10万円じゃ安すぎるよ。


     つづく