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実験室

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実験室

ここは私の実験室である
実験室は矮小であり、広大でもある
実験はある可能性を実証するために1年前から行っている
結果は10か月を待たずに得ることが出来た
そして、今、実験の状況は私の想定を越えようとしている

実験はシンプルなものである。
私は、実験室内のある一点にエネルギーを与えた
点は膨張し爆発した
室内の位相は変換され膨張は加速した
物質、空間が生まれ、時が流れ始めた
そして、広がった時空の構造は
一様等方かつ無窮となった

実験の初期過程では物質が対で形成される
私は匙加減を忘れなかった
ほんの少し負より正が多くできるように
また、その分布には揺らぎができるように
光子が生まれ、素粒子は原子を形成した
やがて、それらは離合集散を繰り返し
無数の塊や集団を形成した

私は数千億の集団を注意深く観察した
実験室内の時間で100億年が経った頃
ある集団の片隅のたった1つの球塊に発見した
証明しようとしたものを
物質は生命体を作ることが出来たのである

3か月の間、私はそれらの変化を観察してきた
水、大気、温度、磁場、重力
球塊は生命体の進化に絶妙な環境を与えた
生命は極めて単純なものから複雑化し
球塊のあらゆる環境において無数の生態をなしながら進化した

そして、今日、科学の力を持つに至ったひとつの種は
辿り着きつつある
生命の成り立ちの理解にとどまらず
この実験室の原理の理解にまで

私のこの実験は終了すべき時を迎えた
生命がそれ自身を創り始めたことまでは許すことができよう
しかし、私の実験室の中に実験室を作ることは許せないからである
1時間後には私は実験室内を圧縮し1点に戻すだろう
生命にとってはあと150年の時間しか残らない
私は冷徹な物理学者なのである
作品名:実験室 作家名:ひろし63