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月音 光(つきねあきら)
月音 光(つきねあきら)
novelistID. 69444
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避暑地の恋

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私は女子高の3年生。避暑地にある旅館の一人娘だ。

高校を卒業したら家業を手伝うことになっている。

友達は皆、大学や就職で都会に出て行ってしまう。

私だって都会に憧れてるから、精一杯の抵抗は試みた。

だけど、母の「そんなに困らせないでおくれ」の言葉と涙に負けた。

田舎の風習って大嫌い。

一人娘と長女は嫁に行くことを許されずに婿をとる。

バカじゃないの?ここだけ時間が止まってるの?

諦められるまでにどれだけ泣いたことか。




夏休みの間は特に忙しく、旅館の手伝いに明け暮れる毎日だ。

朝早くからの掃除、配膳、布団上げ、宴会の支度、風呂掃除と息をつく暇もない。

毎年この高原には、都内の大学のラグビー部員が合宿のためやって来る。

お客さんなのに一列に整列して「よろしくお願いしまーす!」だって。

高校野球か!

体育会系の人は挨拶がしっかりしていて、清々しい。




大学2年生のNさんに初めて話しかけられたのは夕食の配膳の時だ。

「あの、白樺ってどうしてこの辺にしかないの?」

地元の人には当たり前すぎて笑っちゃった。

「白樺って標高が1,000メートル以上ないと育たないからです」

「あ、そうなんだ。ありがとう。」

「練習頑張って下さいね。」

ぺこりとお辞儀してその場を離れた。

初めての会話はそれでお終い。




次の日からお互いに会釈を交わすようになり、私はしだいにNさんと仲良くなっていった。

練習が終わり入浴、食事、ミーティングが終わると人目を忍んでのデート。

デート?これデートなのかな?

今までしたことないからわからない。

星空の下、たわいもない話をするだけでも、私にとっては夢のような時間だ。

どんどんNさんに惹かれていくけれど、合宿が終わったら東京に帰ってしまう人。

言葉には出さないけれど、お互いに好意を持っているのはわかっていた。

手を繋ぐだけだけど、Nさんは恋と言う。

私は心のなかで「夏が行けば恋も終わる」と繰り返す。




合宿も終わり明日には帰ってしまうNさん。

楽しかった夜のデートも今日で終わり。

いつもは楽しく話しているのに今日は無口な二人。

重苦しい空気が二人を包む。

いつも心地よい高原を渡る風も、今日は木枯らしのように感じる。

ずっとNさんに聞きたかったことがある。

今日しか聞けない。

Nさんに聞こえないように大きく深呼吸。

勇気を振り絞って

「ねえ、わたしのこと・・・すき?」

だんだん声が小さくなり最後は聞こえなかったかも・・・。

Nさんがふいに私を強く抱きしめた。

生まれて初めて男の人に抱きしめられ、目眩がする。

Nさんは何も言わないけれど、気持ちはしっかり伝わって来た。

私の唇にNさんの唇が静かに重なったのはその後だった。

Nさんの太い腕がなかったら体の力が抜けて立っていられなかった。




「旅館の仕事を教わりたいから、土日は来るから」

その意味を理解した時、私は泣きながらNさんにしがみついていた。

満天の星空はにじんでしまって見えないよ。




(終り)