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異世界に行って無双した件

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広場の上空に宇宙船が停止しているのを知って、大勢の人間がその広場に駆け付けた。
 そして警察が来て群衆を整理したのを見届けたかのように、宇宙船は着陸した。
 扉が開いて、宇宙人が姿を覗かせる。すると、群衆は叫び声を上げた。ある者は笑顔で手を振り、ある者は涙を流して手を合わせた。
 宇宙人総勢七名が呆気に取られていると、イエローテープの規制線の中を立派な車数台がやってきて、ひとりの地球人が降りて言った。
「長らくお待ちしておりました。この日本国に来て下さって、ありがとうございます。私は、日本国外務省地球外惑星局、ピクバ部長の鈴木と申します」
「私たちがピクバ星人なのを、ご存じなのですか」
 ピクバ星人たちが驚くと、鈴木は笑った。
「何をおっしゃいますか。立ち話も何ですから、さあ車にお乗り下さい」
 ピクバ星人たちが分乗した車列が動き出す。歓迎のプラカードを掲げて大騒ぎする群衆の間を、車列が走り抜けていく。
 窓の外を見ているピクバ星人に、鈴木が話しかけた。
「例の子は、無事に十歳になりました。皆さんがなかなか再訪してくれないので、皆さんの存在はフェイクだという疑いも出されるのですが、そのたびにあの子がかき消してくれています」
「すみません、状況がよく分からないのですが……」
「えっ?」
「私たちは今回ピクバ星から初めてこの星にやってきた、第一使節団なのですが……」
「そうなんですか?」
 ピクバ星人は車窓を、群衆を、プラカードを見ながら鈴木に尋ねた。
「皆さんが知っている私たちについて、話してもらっていいですか?」
「えっ……? ええ、ええいいですとも」
 鈴木は続けた。
「この星の時間単位で十年前ということで理解していただけるといいのですが、それなりに以前に、皆さんは初めてこの地球に来て下さいました」
 ピクバ星人は、興味深そうに鈴木を見すえた。
「そして一か月ほど滞在して下さって、その短い期間に国連機関、主要国政府の要人と会談なさいました。そのさなかに、すぐに命を失う遺伝病にかかった赤ちゃんを治して下さったり……ええ、先ほど申し上げた、無事に十歳になったという子のことですね。それから、座礁したタンカーによる海水汚染をたちまち解決して野生動物を助けて下さったり、交通事故に遭いそうになった女性を身を挺して助けて下さったり、たくさんの感動を私たちに残してくれました。その人命救助の動画は、皆さんに襲いかかった愚かな暴漢を華麗に制圧した動画ともども大人気でしたね。アクションスターのよう、映画のヒーローのようでした」
「なるほど……」
 ピクバ星人がつぶやくと、鈴木は嬉しそうに続けた。
「そして、近いうちにまた戻ってきます、と言い残して去られたのです。その後我が国の外務省に皆さんのような方々と接するためのセクションも創設され、皆さんとの再会を楽しみにしていたのですが、十年も経ってしまうとは……宇宙という場では、こういう間隔のお付き合いになるのですね」
 車に揺られながら、ピクバ星人は言った。
「ひとつ確認したいのですが……」
「何でしょう?」
「今も、プラカードを掲げた子供がいたでしょう」
 この車列のことは既に話題として共有されているようで、歓迎の気持ちを車列にアピールする地球人がちょくちょく車窓に現れていた。ピクバ星人が言ったのは、そういうもののことである。
「私たちの姿があのように描かれていますが、あのように思われているのでしょうか」
 鈴木は苦笑した。
「絵に拙いものがあるのはすみません。しかし、絵は拙くとも、地球人が皆本当の好意を持って描いたものです。そこはご理解いただきたい」
「いえいえ、それはよいのです。本当にありがたいことです。ただ、私が言いたいのは、そういうことではなく……」
「と申しますと?」
「私たちの姿が、その……全身緑色の皮膚で描かれているのですが……」
「えっ? 私たちは、誤解しているでしょうか? 第一陣の皆さんが、皆そうでしたし……」
 そして鈴木は、あなただってそうでしょう、と言うようにピクバ星人の緑色の顔を見つめたが、ハッと思い直した。前回は見逃してくれていただけで、実は差別的な描写なのかもしれない。ここは謝らなくてはならない。地球人全員にもこれを知らせなくてはならない、と思ったところでピクバ星人が切り出した。
「どうやら、皆さんが見たのは公式な第一陣ではなく、私の星の脱獄犯一味です」
「ええっ!?」
「そして彼らが皆さんに対して罪を犯してしまったことを、代わって私がお詫びします」
「ええーっ!? ピクバ星人の皆さんのファンどころか信者も既に多いのに、いったい何の罪だとおっしゃるのですか?」
「……公然わいせつ罪です」
 緑色の皮膚を顔だけに見せている、衣服を着ている宇宙人が申し訳無さそうに言った。

(了)