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二十歳の知恵熱

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この世で自分が一番の幸福者であることを実感したのであった。
そして この絶頂にあった彼は、
彼女へと電話する為に坂道を下っていったのだった。

 ≪ ? ? ?結  ≫

『僕はもう何もいらないんだ。
 とても幸福だと思うし、これ以上のモノは何もいらない。
 だから、君とも、もう逢わないようにしようと思うんだ。』


青年は、電話先の彼女に昨日からの出来事を話し、
そして、別れようという決意を告げた。

『今から、十年勉強して医者になろうと思うんだ。
 僕の人生は 自分んの為だけに使うには 余りに幸せすぎるから。』

彼女は何も言わずに 電話の向こうで唯笑っていた。微笑んでいたのかも知れない。
翌日、彼はまた元の彼に戻った。
そして再び彼女に電話をかけた。
『ごめん、また会ってくれるかな。』
彼女は何も言わずに、電話の向こうで唯笑っていた。微笑んでいたのかも知れない。

           終わり


 表現力が欠落しているので、何を言いたいのか、上手く伝わらなかったとは思いますが、この「二十歳のの知恵熱」は私自身が体験した事柄です。幸せとは何なのか、どう生きていったら良いのかといった問題にぶつかる度に、私はこの出来事を思い出します。これは今でも断言できることですが、私はあの夜以上に苦しい思いをした事はありませんし、あの朝味わった以上の幸せを味わったこともありません。この2つの体験はセットになって、私の身体の奥深くに存在しているんだと思います。
 夜にはいっそのこと死んでしまおうかと思った人間が、一夜明けた途端に幸福の絶頂にいる。この幸福は何がとか、誰がとか言ったものではなく、静かなものでした。でも、すべての人に対して溢れるほどの優しさを感じていたのです。
 ただそれが一過性のものであった事は残念ですが、私は私の中にそのような「意思」が眠っていることを嬉しく思っています。このまま死ぬまで眠りつづけているだけかもしれませんが。
 
作品名:二十歳の知恵熱 作家名:こあみ