私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(正位置編)
何気ない朝(愚者の正位置)
その日、私はいつも通り目覚ましが鳴る前に、起きていた。いや、正確には起こされていた。
「主~、起きろって!」
とある人物の、声によって。
彼はタロットカードの一枚、『愚者』の正位置と呼ばれるカードである。私の所有するタロットカードは、全員で78枚。愚者はそのうちの一般的に大アルカナと呼ばれている22枚に所属している。
彼らと会話ができるようになったのは、初めて出会った時だった。最初こそは驚いたものの、こう毎日会話をすれば慣れてしまう。
「はいはい、今日も君のおかげでスッキリ起きれました」
「へへ、だろ?」
愚者さんは名前に合わないほど元気だ。いつもこの調子で、私を決まった時間に起こす。理由を聞いてみると、『早起きは三文の徳であり、朝の限られた心地いい世界を体感してほしいから』だそう。
「……他の皆はもう起きてるの?」
「正位置組はな!」
「やっぱりか……」
タロットカードには、正位置と逆位置が存在する。カードの向きによって、意味が逆転してしまうのだ。例えば愚者さんの場合、主な意味は、『挑戦』『発見』など。
カードがさかさまになった状態、逆位置の意味は、『裏切り』『失敗』などになる。それによって、カードの人格にも影響があり、一枚のカードに2人といった具合になるのである。
「愚者さんは早起きなんだね、眠くないの?」
「こっちの世界ではならないな、自分の世界に帰ったら眠いけど……」
「へぇ、便利だね~」
彼らはそれぞれ、自分の世界を持っている。私が占いをしたりするとき以外は、自分たちの世界に戻っているそうだ。カードによって、形は様々。何度か案内されたことがあるが、いつ行っても不思議である。
「カード達の世界って、なんかのびのびとしてて良さそうだね。私達人間の世界なんて問題ばっかりおきてるし……」
「いや、そうでも無いと思うぞ。どの世界であっても、対立が起こる。それでも、対立はいいものだ。 自分では気づかない、思いつかない発想が見つかるしな!」
愚者さんは時々いいことを言う。それは彼の司る『発見』が影響しているのだろう。人と関わるから対立が生まれる、そこから人は成長していくのだと、彼は言う。
「人って、一人じゃ生きられないもんね」
「ああ。自分じゃない誰かがいるから、人は生きられるんだ。それを忘れるなよ?」
いつもの無邪気な笑顔で、愚者さんは私の頭をワシャワシャと撫でた。いつもの朝、不思議で心地いい時間。
私はこの時間と愚者さんに感謝をし、朝食を摂るために寝室を出た。
作品名:私と彼等の日常は、あまりにも非現実的すぎる(正位置編) 作家名:死神の嫁