足軽の恋
大それたこととは知りつつも、姫への想いを止めることができない。
日に日に想いは募るばかり。
足軽は想いを姫に伝えたくて、いてもたってもいられず
想いをつらつらと手紙にしたためた。
そんな大それたこと・・・恋は盲目とはよく言ったものだ。
この足軽、どうやらほんのりと想いを伝えるのが苦手と見え、
綴られている言葉はひたすら槍の一突きのみ。
こやつ、ひょっとしたらイタリア人か!
もちろんそんなことは誰にも言えるわけがない。
知られたらすぐさま首をはねられてしまうだろう。
くる日もくる日も足軽は遠くで姫を見ているしかなかった。
ある日足軽は、姫と大国の若君が仲良く話しているのを見た。
たったそれだけのことで、足軽の心は張り裂けそうになった。
始めから届かぬ想いだけれど、せめて手紙を渡したいと足軽は決意した。
懐に手紙を入れて姫の通りそうな場所で姫を待つ。
偶然にも警護の者に囲まれてはいるが、姫に遭遇。
地に膝を付き目を伏せ姫の接近を待つ。
姫が目の前を過ぎようとする瞬間、姫を見て声を出そうとした足軽だったが、
一瞬早く姫が口を開いた。
「これ、声を出すでない。そちが何を言いたいか目を見ればわかる」
「その想いには応えてやれぬが、そちの気持ちだけを受け取っておく」
「懐に何やら持っているようだが、それを出すとそちの命はない」
「その想いを他のおなごに向けるが良い」
そう言い残して立ち去る姫。
あとには高貴な香の香りだけが残っていた。
(終り)
作品名:足軽の恋 作家名:月音 光(つきねあきら)