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師匠と卵 ―「卵、四国へ、お遍路へ」の巻―

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師匠と卵 ―「卵、四国へ、お遍路へ」の巻―
   
 19?9年5月15日夜、卵は西カゴシマ駅のホームに立っていた。

 押し潰されそうな程の気負いと、本当に押しつぶされそうな量の荷物を背負って、四国への「風に吹かれてお気楽お遍路」への旅立ちの、まさにその瞬間を迎えようとしていた。

 「すぐに帰ってくる人を送るのはいいけど、君はこのままどっか行っちゃいそうで、嫌だね。」
 たった1人、わざわざ見送りに来てくれたウッチー・ウシウシ氏は、さびしそうにそう呟いた。2人を包む空気は悲壮感そのものだった。

 実は、卵もとても心細かったのである。
 (止めようカナー)そう思うのだが、見送りの人がいる。
 これだけの格好をして、見送りまで受けて、止めるなんてそんな恥ずかしいことは出来なかった。誰も知らなかったら止めていたかもしれないが。
「じゃあ行ってきます。
 楽しんできます!」
 精一杯強がって、引きつった笑いで手を振り、列車に乗り込んだ卵であった。

 汽車はどんどんどんどん、サエキへ向かって走って行く。 カゴシマから離れていく。
 とても心細い旅立ちの卵だったが、心細くてもお腹は減る。 で、母親の作ってくれたお弁当を広げて、早速のお弁当タイムということになった。
 列車の中にはそこそこに乗客がいて、卵の隣にはおばあちゃんが相席していた。
 行商か何かの帰りなのか、大きな風呂敷の荷物をせたらったおばあちゃんで、同じ大荷物仲間なのが気に入ったのか、一緒にお弁当にすると言う。そこで二人一緒の連れ弁となった。
 「はい、これ、食べな。」 おばあちゃんは気前よく、卵におかずの品々をお箸でつまんで渡してくれた。
「ありがとうございます。
お礼にお茶でも。どうぞ、まあどうぞ。」
おばあちゃんに、お茶のお酌をする卵であった。
 二人が互いの弁当をパクパク食べお茶を飲んでいる間も、列車はどんどん走った。

 「お土産だ」そう言ってティッシュ・ペーパーを置いて、おばあちゃんは列車から降りていった。それからしばらくして列車はミヤザキに到着した。



 ミヤザキ駅のホームは、遅い時間にもかかわらず大勢の人であふれていた。で、その人たちが一斉にドヤドヤと乗り込んできたものだから、卵は大急ぎで大荷物をまとめなければならなくなった。
 棚に上げられるものは棚に上げ、残った物は脇に抱え込んで作った、向かいの席に一人の中年男性が座った。
 お見送りに来た、と思われるクラブのママらしきお化粧美人との、窓越し、濃厚なお別れの儀式が済むと、その男性は酒気帯びの顔を卵に向けた。

 「ウイッ!」そして頼みもしないのに、
「ウイッ!ウォッホン!
 ?私はこういうものだ!
 (驚けよこの若造!)」と言って名刺を差し出したのである。それも突然、一方的に差し出したのである。
「イラナイ!」と言える根性を持ち合わせていなかった卵は、ヘェェ―と両手を差し出して名刺を受け取った。
 ただでくれるものはなんでも反射的に貰ってしまう性質は、時として悲しい事件を引き起こす、事もある。
 
 名刺によるとそのおっさんは、自動車学校の社長のおっさんだった。それからしばらく、卵はこの自動車学校社長(?)の酒気帯び会話に付き合わされることとなる。

 「君は逃げている。敗北者だ!」
「 女を狙って旅などに出ているが、女の求めるのは力強さだ。
 征服されたいと願っているのだ。」
「僕が29の時は、一睡もせずに企業の為に尽くしていた。」
「 若さということで許せる。しかし、もしも僕らのような中年が、君のようにヨレヨレの服を着て、荷物を持って夜汽車に乗っていたら、それは許せないことだ。」
 エトセトラ、エトセトラ、エトセトラ、エットセ〜トラ!

 「何処へ行くんだ。」
「四国です。」
「旅行か?」
「いえ、遍路をしに行きます。」これが最初に交わした会話である。
「お前みたいな奴のことは、一見しただけでゼェ〜ンブわかるんじゃ!エッヘン!
 お見通しなんじゃぞ、この野郎!」
 一見してお見通しされたからには、もうしゃべることもない訳で、いや、何をしゃべるのかもみんなお見通しであるから、何をしゃべっても無駄な訳で、とにかくシャベるもシャベらないも、しゃべらしてくれない!喋るだけ?
 一方通行の言葉の嵐の中、卵はただじっと身を潜めてその通過を待った。

 そこへ、列車の車掌さん登場。
 「おい、ジュースをくれ!」いきなり、ラリアット攻撃に出た社長はん!
 「自動販売機なら、あります。」
 「持ってきてくれても良いだろう。」つばめ返しで切りかかる酔っ払い剣法!
 するとその車掌さん、早くもプッツン!血相を変えて抗弁し始めた。
  ハブとマングースの世紀の戦いは、コットン夜汽車の中で、延々と続けられた。
   
「君みたいな奴は駄目だ!
 それじゃあJRが民間になっても意味がない。
 君はクビだ!
 それが、民間だ!」
 俺は男だ!
 お前は車掌だ!

 こうして、四国への旅の初めての夜は更けていったのである。


―つづくー