師匠と卵 ー「卵 四国へ行く」の巻ー
「僕、四国へ行こうと思っているんです。」
ある日、卵は居酒屋でウッチーウシウシ氏、フワフワボーシ氏とお酒を飲んでいた。そこで突然、四国旅行の計画を打ち明けたのだった。
「ふーん、どこ行くの?
高知とか?」
「いや、一周しようと思ってるんです。」
「そりゃ、大変だねぇ。仕事はどうするの?」
「辞めて、行きます。」
「もう、決めたんでしょう。仕方ないよね、良い経験になるんだろうね。」
「それで、四国までカヌー、乗って行こうと思ってるんですけど。」
プハッー??
卵の言葉を聞いて、隣に座っていたウッチーウシウシ氏もフワフワボーシ氏も、一斉に口からビールを吹き出した。
「な、なんて言った!」
「いやあ、カヌーで四国にいこうかと・・・。」
「冗談だよね。」
「マジっす!」
この時点で、ウッチー・フワボーシ両氏に、卵の決意の固さが伝わったのであった。
「毎日カヌー乗って練習して、4月頃になったら、海岸伝いに廻って、野宿しながら行こうかと思っているんですョ。」
「いやあ?・・・・・」そういったまま、ウッチー氏は絶句してしまった。それ程、卵の計画は完璧なもの、のはずはなかった。
「止めたほうがいいよ、絶対、止めたほうがいい!」ウッチー氏とフワボーシ氏は、卵の説得に躍起になった。
「そうすかねェ。無理でしょうか?
ちゃんと、練習していこうと思ってるんですけど。
今まだ1月でしょう、4月までは時間もあるし。」
「いくら練習したって無理だって。
途中で、海上保安庁に捕まっちゃうよ。」
「エッ、海上保安庁に、ですか?
フ?ム・・・・・」
考える卵は、やっと茹で上がった。
「じゃぁ、やめます。」
海上保安庁に逮捕と言う言葉で、実にあっさりと、『卵 海を征く』計画は頓挫したのであった。ウッチー・フワボーシ両氏が、心底安堵したのは言うまでもない。
実はこの四国旅行には重大な秘密が隠されていた。と言うのはこの旅行は、卵にとってある秘密結社からの足抜けの隠れ蓑だったのである。
その秘密結社は『ヨヨヨ計画』の名の許に、人類の改革を推し進めていた。今ここでその全容を語ることは出来ないが、その計画に恐れをなした卵は、考えあぐねた末に四国への旅行を申し出、脱会が許されたのであった。
しかしこの時点において、この『ヨヨヨ計画』が日本中で密かに進行していることを、卵はまだ知らなかったのである。
カヌーでの四国遠征を諦め、徒歩による「風に吹かれてお気楽お遍路」に変更した卵は、その報告を兼ねてある女性の本を訪れた。
卵は彼女であるマンマル・タマゴッ子と共に、その女性の前に座って、四国旅行の計画を告げた。
するとその女性はこう言ったのである。
「あなたね、四国でお嫁さんが見つかるよ。
それから住む場所も見つかる。
だから鹿児島なんかへ、帰って来ちゃ駄目よ!
こんなん出ましたけど!」
その人は特殊な能力を持っていた。いわゆる霊感と言うやつである。つまりちょっと上品で綺麗な「コンナンデマシタケド」おばさんなのであった。
「マンマル・タマゴッ子ちゃん、あなたはね、そうなっても泣いたらいけませんよ。
私がついているから。
心配しなくてもいいのよ。」
その人はそう言って笑った、が、卵もマンマル・タマゴッ子も、言われたことの意味が今ひとつわからなくて、ただ顔を見合わせて苦笑するだけだった。
ーつづくー
作品名:師匠と卵 ー「卵 四国へ行く」の巻ー 作家名:こあみ