師匠と卵 ー「卵のアー勘違い」の巻ー
あまり遠くない昔、あるお寺に立派な和尚様が住んでおりました。そしてその和尚様には、ちょっと出来の良くない、弟子の卵がありました。また、卵には妻があり、その名をコケッ子と言いました。
これは卵が初めてコケッ子に連れられて、和尚様を訪ねた時のお話です。
師匠:そうですか、お四国遍路を・・・、そりぁ大変でしたなぁ。
卵 :いえいえ、楽しいことの方が多かったですから。
・・・ところで、和尚様、私は今、阿含経典を読んでいまして、四国にも持って出ようと思っていたのですが、重たいからやめときなさいと忠告されてやめたんです。それぐらい今の私にとっては大切なものなんです。
師匠:そうですか。
卵 :人生の中でどんな問題にぶつかっても、阿含経典さえあれば解決すると思っています。
経典の通りに生きてみたいと思います。
師匠:それは、もう、お坊さんになるしかないですな。
卵 :えっ、お坊さんにですか・・・。
(しばらく間があって)
私も、お釈迦さんみたいになれますか?
師匠:そりゃあなれますとも。
お師匠様のお寺を出てから、卵はずーっとお師匠様の言葉を頭の中で繰り返していました。
(お坊さんになるしかない、お坊さんになるしかない、っか)
何度も何度も繰り返してつぶやいておりました。
そして翌日、お風呂の中で卵は急に決断したのでした。
(よし、お釈迦様みたいになれるのなら、お坊さんになるしかないのなら、なろッ!)
それは、とても安易な決断でした。
数年が経ちました。
お師匠様の御説法の会から帰ってきてから、卵は少し物思いにふけっておりました。そして首をひねりながら、妻のコケッ子に尋ねたのです。
卵 :ねぇ、一寸教えて欲しいんだけど。
コケッ子:なに?
卵 :もしかして、仏教って、皆仏さんになれるの?
コケッ子:そうよ、仏教って、仏様の教えって言う意味もあるけど、仏様になるを教えって言う意味でもあるのよ。
卵 :お釈迦様みたいに?
コケッ子:決まってるじゃない。知らなかったの?
卵 :・・・・・
卵は今の今まで、自分だけがなれる、とお師匠様は言ってくれたんだ、そう思っていたのでした。
終わり
作品名:師匠と卵 ー「卵のアー勘違い」の巻ー 作家名:こあみ