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そこにある景色

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木の枝が袖を引いた。
もう少しここで…。

夕暮れの街。
一望できる秘密の場所。
蛙の鳴き声。
家に帰りなさいと急かす声。

落ちていく夕陽。
暗くなっていく空。
それを眺めて、夏の一日が終わる様を見ていた。
何も無い今と、明日からの日常。
明日は必ずやってきて、それを強要する。
それを拒む力…。
それを手に入れれば楽になるだろうか?

この瞬間の世界は美しく見えて、拒む気になれない。
明日がきて、きっと後悔するんだろうな。
この世界の綺麗に騙されて、明日はきっと後悔する。
また来る日常に溜息を吐く。

引き止めた小枝をそっと離す。
こうすれば、もう引きとめられない。
ここからずっと街を眺めていられたら変わるだろうか。
そんな風に考えて、変わらない。
あの街に帰って繰り返す日常。
ここの景色も変わらないのに、繰り返す毎日を好きになれない。

泣く事も、抗う事も忘れ生かされる。
そんな毎日、もう嫌だ。
そんな風に考えて繰り返す。
抗う術を忘れて泣けもしない。

変わらない景色に溶けたくて、けれど日常を否定する。
それは矛盾と、誰かが笑うだろうか…。
作品名:そこにある景色 作家名:櫻都 和紀