端数報告5
グリ森セブン:私が愛した北朝鮮スパイとミイラ男
しかし、結局はそのときは亀丸さまにはお目にかかれなかったのではないかと、今では思っている。というのは、ディレクターが見つけてきた霊媒師と称するオバサンは、僕が見てもほとんどそういった能力のある人とは思えなかったし、おまけに記憶力も悪かったからである。彼女は、まず緑風荘のご主人と長距離電話で話し、それから数十名の観客を前にして降霊の式を始めた。ところが約十分たっても一向に霊が降りた気配がないのである。オバサンはうつむいてゴニョゴニョと何か呪文のごとき言葉を唱えているだけなのだ。仕方なく、ディレクターに頼んでオバサンの前のマイクのボリュームを絞ってもらってから、僕は彼女の体調を気づかうふりをして歩み寄った。
「どうしたんですか、まだ来ないの?」
彼女は小声で僕に答えた。
「忘れた」
「忘れたって何を?」
「今、呼び出してる座敷わらしの名前、忘れてもうたんや」
僕はうんざりしながら、客にバレないように彼女の耳元でその名をささやいた。次の瞬間、彼女は「ぐおおおお」といった声を発して床に突っ伏し、それからケロリとして起き上がると妙にかん高い声で言った。
「わしがカメマルじゃ」
だから、多分、ま、勿論想像の域を出ないのではあるが、あのとき亀丸さまはスタジオにはおいでにならなかったんじゃないかと思っているわけである。
画像:イルカの恋、カンガルーの友情表紙
というわけで前回は、イタコ商売の話をした。インチキ霊媒師も上に引用した景山民夫・著『イルカの恋、カンガルーの友情』(角川文庫)の中にある『座敷わらしはお友達』って話に出てくるようなのならばたいして害がないと言えるが、しかし世の中には、子供を亡くした親に近づき、
「ワタシには、霊界にいるお子さんが見えます。名前はM子ちゃんですね」
なんてなことを、役所の住民票など調べたネタを元にして言う。すると中には、
「M子のためにどうすればいいんだ!」
と叫んで泣いてすがりつく者が出る。そんな人から財産すべて搾り取るのを商売にする輩(やから)がいて、映画『マイノリティ・リポート』の、
画像:彼は浜辺にいる 父親似でランニングが大好き 逃げて
アフェリエイト:マイノリティ・リポート
これはそんな連中が使うテクニックとまったく同じだ、なんて話を致しました。
「それは騙される方も悪い」
と言えばまあその通りだ。その通りではあるけれど、そうひとことに言って済ましていいことじゃねえよな。これができる人間は悪人の中の悪人であり、良心を持たぬサイコパスだ。一方でまた世の中には〈騙されやすい人間〉がいて、グリ森事件の1984年には、
画像:罪の声マンガ版1アカン死ぬで
アフェリエイト:罪の声昭和最大の未解決事件1
こんなのがまあいたにはいた。らしい。いたのにはいたんだろうが、おれは直接に見たことはないし全体から見ればわずかだろう。
これは犯人が悪いと言うより、このオバサンがイカレたことを信じやすいバカな人だというだけのことで、悪いのは当時のマスコミである。テレビのニュースやワイドショーが連日事件を取り上げて、〈識者〉に言わせることと言えば、
「犯人達は江崎家の長女の名前がM子というのを知っていた。これは会社と警察に仲間がいる証拠ですね。長岡香料の電話番号を知ってるってことは、お菓子に毒を入れられる立場の者がいるということ。グリコは密かに箱を調べて毒入り菓子を見つけながら、それを隠して出荷している……」
なんていうような話ばかり。そんなのを丸ごと全部信じるやつがおれの高校のクラスにもいた。
という話は再三書いてきました。てわけでこれは、
「騙される方も悪い」
と言うより、
「信じるやつの頭が悪い」
という問題だ。そうなんだけど、なんでまたまた同じ話をするかと言えば、それは、
アフェリエイト:罪の声
という本があるんだってね。さっきのやつはこれをマンガ化したもので、さらに映画にもなってるという。おれは全然知らなかったのだけど前回の投稿をした後でテレビをつけてケーブルテレビの〈日本映画専門チャンネル〉に合わすと、
画像:罪の声CMキツネ目の男
こんな画が出てきやがってまあ驚いたのなんの、
「12月の日本映画専門チャンネル、〈日曜邦画劇場〉は『罪の声』! うんぬんかんぬん、かんぬんうんぬん……」
と言うから「えええええっ!!」と思った。うっそー、そんな映画があったの? 急いで録画ボタンを押してまた同じものが流れるのを待って見直してみたところ、しかしその一分間、60秒のCMというのが、
画像:罪の声CMベランダの女 口をふさぐ女 顔を覆う男
こんな画の連続で、そしてまた、
「一生台無しや!」
「帰ってください! おもしろおかしく記事にして、こっちはどうなります! 子供の未来はどうなるんです!」
こんなセリフの連続であり、暗い。もう、ズンドコに暗い。あんま見たくねえな。ってゆーか、普段のおれだったら、
「絶対見ねえな」
と思うとこだな。おれの嫌いな日本映画、おれの嫌いな日本ミステリだ。とにかくもう、大っ嫌いなんだよ。ヒョーロンカどもが誉めそやす、日本映画が世界に誇る『飢餓海峡』とか『砂の器』とかなんとかいった、
「さあ〜、ねえムーミンなさい〜、疲れ切った〜、恥ずかし〜がらない〜で〜」
な感覚のやつね。どうして日本でミステリと言うと、こんな調子のものになるのか。
恥ずかしいよ。おれは日本にこんなもんしかないというのが恥ずかしいよ。と、思ってるとこにケーブルテレビ会社の番組誌が届いたので、見ると、
画像:罪の声解説
こうある。《塩田武士の同名小説を映画化》だって? 知らんな、そんな作家。しかし〈楽天コボ〉のサイトを開いて検索すると、その本の他にさっき見せた全3巻らしきマンガ版が出てきた。
当然、そっちを先に見てみる。最初に出たのがさっき見せた「アカン! 死ぬで!!」だが、この話では〈グリコ〉の社名を〈ギンガ〉と変えているらしい。
それはいいとして、もうこの時点で、
「アカン! こんなもん読んだらバカになってしまうで!!」
という気もしたが、ともかく2巻目の試し読みを見てみる。すると、
画像:罪の声マンガ版2点と点には繋がりが
アフェリエイト:罪の声昭和最大の未解決事件2
こうだ。
《犯人の挑戦状にも「ヨーロッパ」って言葉は出てたしな/この点と点には何か繋がりがあるんちゃうかな》
って、なんだこりゃ? 《犯人の挑戦状にも「ヨーロッパ」》って、それは、
画像:グリコゆるしたるの手紙
これか? 6月末に《江崎グリコ ゆるしたる》として書いた手紙の中に、
《日本は むしあつう なってきた ひとしごと したら
ヨオロッパえ いくつもりや チュウリヒ ロンドン パリ
の どこかに おる》
という文がある。ただそれだけ。実はこのとき〈彼ら〉は丸大食品に狙いを移して脅迫を始めていた。
グリコで失敗したものだから今度はマスコミを使わずにこっそり事を運ぼうとしていた。ために適当なことを書いてる。