小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ヘリトンボ(おしゃべりさんのひとり言 その69)

INDEX|1ページ/1ページ|

 

ヘリトンボ



「お、この車運転してみたいな」

ボスの車は通常、ベンツが多いんだけど、ころっころと車種が変わる。
会社経費で買って、使うかどうかよくわからない高級車が、自宅前の駐車場によく停められてた。
そんな車に乗せてもらうことはよくあったし、僕が運転することもあった。
フェラーリやランボルギーニみたいなガッチガチのスーパーカーは無かったけど、ベントレーなんて普通の人はめったに乗れないよね。僕はラッキーだ。
僕は2年間、ボスの個人秘書をしていたので、いろんなところに同行する機会があったんだ。

海外に連れて行ってもらうことも多かったし、ボスが泊まるいいホテルの安い部屋をあてがってもらってた。
たまには妻も連れて行くようなこともあって、そんな時にはセミスイートルームを予約してくれることもあった。
飛行機に乗る時、ボスは『ファーストクラス』だけど、同行者も『エグゼクティブラウンジ』を使わせてもらえる。
そこで当時の僕は、こんな金持ちが世界中にうようよいるんだってビビッてたけど、今じゃ僕もそのワンランク下の『ビジネスクラス』と『プライオリティラウンジ』の常連メンバーになれた。

レクリエーションではクルーザーを出してもらったりしてたけど、その内にそのヨットハーバーが気に入ったからって、丸ごと買い取っちゃって、僕らはそのテラスを貸切で、BBQなんかに使わせてもらったりもした。
本来、こういう人たちのことを『パリピー』って言うんだろう。

もう一つ乗り物で忘れちゃならないのが、ヘリコプター。
小型のヘリが国内移動用に1機あって、僕らはそれを『ヘリトンボ』って呼んでた。

契約パイロットが操縦して、ボスがその横に乗って飛んで行くのを、僕は見送るだけ。
乗りたいなって思ってたけど、二人乗りだったから僕の席はないんだよ。
でもその気持ちをボスは解ってたみたいで、
「もうヘリトンボ手放すから、最後に乗せてやろう」と言ってくれたんだ。

それはある私有地の倉庫みたいな小屋に仕舞ってあって、周りは草ぼうぼうの空き地。
ボスの自宅から近くて、自由にヘリの着陸許可が取れる場所だから、こんなところだったのかな。
そこで僕はついに、ヘリトンボに乗せてもらえた。
確か1時間飛ばすのに、20万円もかけてくれてたと思う。

操縦するのは顔なじみのパイロットさん。
もう20年位前のことだけど、当時日本で2人しかいない飛行機のアクロバットパイロットだった方だ。
セスナ飛行機の操縦ハンドルって普通、両手でつかんで押したり引いたりなんだけど、ヘリコプターの操縦桿は一本の棒だけ。それはアクロバット飛行機と同じらしい。
これは戦闘機とかの操縦桿とも同じで、セスナとはライセンスが違うんだって。

どんな操縦だったか想像できる?

まずは普通に遊覧飛行を楽しもうと、カメラ片手に乗り込んだ。
初めての経験だから、当然興奮するよね。
小さな機体は結構フラフラ揺れたので、不安感と不安定感で、高所恐怖症の人は耐えられないと思う。
どんどん上昇していくと、空気が段々薄くなるのか、風に煽られることもなくなってきて、スピードも200キロくらい出ると、もう安定飛行に入るんだ。
10センチ四方くらいの窓が開いて、そこから手を出すとムチャクチャ寒い。

機体の下側にも透明窓があって、自分の街を足元に見ながら写真を撮りまくった。
山や湖の上をグルーっと一周すると、そのパイロットは、
「ちょっと操縦代わって」
「え? 私が?」
「ああ、タバコ吸うから、ほら、それ握って、ペダル操作は俺がするから」
「え? いいの?」
「俺が横に乗ってたら、違反にならないし」
そういうものらしい。

ヘリトンボの座席は、左右に二席並んでるんだけど、その両方に操縦桿が付いてる。
と言うより、床の真ん中から一本突き出していて、左右にYの字になってそれぞれの先端に、グリップがぶら下がって付いている感じ。
つまりどちらの席でも操縦が可能。

僕はその操縦桿を右手で握ってみた。
途端に、機体が不安定になってフラフラする。
「力入れないで。優しく添える感覚が難しいよ」
そう言われても、なかなかうまく機体を安定させられない。
ちょっとのことで、機体が上を向いたり、下に向いたり。
ペダルでスロットル操作されてるみたいだけど、僕が変な向きに向けてしまうと、ブーーーンとパワーを上げたり、下げたりして安定させてくれている。

「握ってる手首を膝の上に置いてみて。そうしたら安定するから」
やってみた。(ホントだ。ふらつかなくなった)
そうして湖の上を自由に、右や左に旋回したりして遊んだ。
横でタバコを吸い終わっても、まだ僕に操縦させてくれていた。

自分でヘリを操縦することが出来るなんて、普通の遊覧飛行じゃ絶対にありえない体験だ。

ぷーーーーーーーーーーーーー!

(ん? なんか音鳴ってる)

ぷーーーーーーーーーーーーー!

(消えない。表示もチカチカ光ってる)

ドミソ和音のような、ちょっと気の抜けたブザーが鳴りだした。

「なんの音ですか?」
「はははは、高度アラート。最高高度まで来たんだよ」
「え? なんで?」
「素人は恐怖感でついついレバーを引き気味になってしまうんだ」
「あ、なるほど」
「これ以上は上昇できない。この機体に許可されてる高度はここまでだ」
僕は操縦棹を前に押してみた。

っググン!!

と、急に機首を下に向けてしまった。遠くの湖面が正面に見えるくらい。
「あああああ」
僕は慌てて、助けを求めるような感じになると、
「じゃ」
パイロットは何やらスイッチをポチっとやった。

ドゥルン・ドゥルン・ドゥルン・ドゥルン・ドゥルン・・・

なんと、エンジンが止まってしまった。

ピィーー・ピィーー・ピィーー・ピィーー・ピィーー・ピィーー・・・

けたたましくアラーム音が鳴り響く。
僕ら二人を乗せたその機体は、上空何千メートルからか知らないけど、完全に機首を真下に向けて、キリモミ状態で降下し始めた。
窓に手を押し付けて体を固定しようにも、目の真ん前はくるくる回る湖面。
てっぺんのプロペラは、音もなく回転してるけど、これは降下してるわけじゃない。
そう、機体全体が回転しながら落下してるんだ。

内臓が浮く。オエーってなる。力いっぱい吐くのを我慢した。
そのまま何秒落ちたか解らない。目が回って自分の平衡感覚を維持しようと必死に我慢してたら、ポチッと。またパイロットがスイッチを押した。

ドゥルン・ドゥルン・ドゥルン・ドゥルドゥルドゥルドゥルドゥルブーーーーン!

エンジンが再始動してくれた。
その瞬間、パイロットが急に操縦桿を引いて、真下に向いていた機体は、まるで空にUターンしたみたいに急上昇を始め、全身にものすごいGがかかる。
そのまま、右や左に急旋回、急上昇を繰り返し、アクロバット飛行を披露してくれたんだけど、僕はもう大興奮で、
「うわああああああああーーーーーーーーー!!!!!!」

この話に“落ち”はないよ。落ちなかったから。


     つづく