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Evasion 1巻 和洋折衷『妖』幻想譚

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 御者の言葉に「すぐ出発します」と従者は答える。
「菰野様、中へお入りください」
 促され「ああ」と少年主人は馬車の屋根に手をかけた。
 ふと、視線を感じて顔を上げると、崖の上の木陰から金色の何かがはみ出していた。
 確かに視線が合った。そんな気がして、菰野はそれを凝視する。
(こんな場所に人……?)
 視線が合った感覚からそう判断してみるも、ここからでは離れ過ぎていてよく分からない。
(金色に見えるのは……髪なのか……? まさか、あれは――……)
「菰野様、お乗りください」
 言葉とともに、青年従者が主人の背を押す。
「うわぁっ」
 すっかり気を取られていた菰野が、姿勢を崩しかけ、慌てて振り返る。
「あ、危ないじゃな……」
『危ないのは時間です』と顔に書かれている従者を見て、主人は「ごめん」と謝った。
「さあ、お早く」
「わ、分かったから、押すなって」
 従者にぐいぐいと背を押されながらも、菰野はもう一度崖上へと視線を投げる。
(あれ、いない……)
 プチッと堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がする。
 次の瞬間には、菰野は従者に抱え上げられ、車内に放り込まれていた。
「うわぁぁぁあっ」
「出してください」
 素早く乗り込み、バタンと戸を閉めた従者の言葉を合図に、御者は鞭を振る。
 馬車はガラガラと音を立て、走り出した。