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狐鬼 第二章

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当の本人は受け取る伊達眼鏡を上着の襟元に引っ掛ける

白狐自身、此(伊達眼鏡)れに関しては
此の二人に偽る事が馬鹿馬鹿しくなったのかも知れない

「俺が行く」

朗朗と宣言する
白狐に対して「了解」とだけ頷く二人が其の背中を見送る

然うして

何(ど)れ程、経ったのだろう
其れ程、経っていないような気もする

くろじが不図(ふと)、閃いた
下衆な考えに下衆な笑みを浮かべる

此のログハウス喫茶店(カフェ)には屋外(テラス)席があり
屋外(テラス)の階段を下(お)りた先は砂浜だ

一人 (すずめ)は
ログハウス喫茶店(カフェ)の木製出入口扉から出て行った

一人 (白狐)は
ログハウス喫茶店(カフェ)、屋外(テラス)席木製両開き扉から出て行った

すずめの後を追う
白狐が此方(砂浜)側の木製両開き扉を選んだ理由は
くろじには分からない

嗚呼(ああ)、分からねえが

迷う事なく「二番手」の食卓(テーブル)席に向かった理由と
迷う事なく屋外(テラス)席木製両開き扉に向かった理由は同じ(筈)だ

其処にすずめ(「二番手」)がいるからだ(笑)

「扨扨(さてさて)」とばかり手を擦る
くろじが木製両開き扉の硝子(ガラス)越し、二人の行方を探し始める

「ねえ?」

突如、背中に声を掛ける
はつねを振り返えるくろじが肩を竦めて返事をする

「?!はい?!」

二人の事を大事にしている、はつねの事だ
二人の事を邪魔する(ような)行為は許さない(筈)だ

「みっともない真似しない!」
等(など)と怒られるのを覚悟するくろじの予想に反して

目の前に佇(たたず)む
はつねは消え入りそうな声で語り始める

「ねえ?」

「きっと、私…」
「きっと、「ちどり」って娘(コ)に似てるのね…」


『彼の時 (も)』

『理由は(今も)分からないけど』
『みやちゃんの隣(となり)で、すずめは泣きそうな顔をしていたの』


理由が分かった「今」如何すればいいのか
はつねには分からない

分からないから、はつねはくろじに訊(たず)ねるのだ

屋外(テラス)席木製両開き扉に背 凭(もた)れる
腕組みするくろじが向かい合うはつねの目を見詰めたまま答える

「だな」

頗(すこぶ)る軽い返事だが
はつねは絶望 等(など)しない

絶望するのは此れからだ、と知っている

「きっと、「ちどり」はもういないのね…」

一瞬
本(ほん)の一瞬、息を呑む
くろじが是又(これまた)、頗(すこぶ)る軽い返事で答える

「だな」

到頭、哀哭は疎か慟哭の声を上げる
はつねが両手で顔を覆って其の場に蹲(うずくま)る

「!!うわああんあああんああああん!!」

口をあんぐりして直様(すぐさま)、外方(そっぽ)を向く
くろじが吐き捨てる

「泣くなよ」

何時にもなく
素気無く吐き捨てられた所で
はつねは溢(あふ)れ出る涙を止める事が出来ない

「だってえ!」
「だってええ!!」

身体を震わせて
咽喉を震わせて

「!!すずめがかわいそうじゃなあい!!」

遂には噦(しゃく)り泣く
はつねの引いて飲み込む様(さま)に可笑しいやら
否(いな)、可笑しいという感情しか抱(いだ)かないくろじが噴き出す

「え?!」

途轍もなく間の抜けた顔でくろじを見つめ返えす
はつねの反応は当たり前だ

くろじも「悪かった」と首(こうべ)を垂(た)れるが
如何にも笑いが止まらない

其れでも

「可哀想じゃないだろう?」

「え?」

「みやちゃんがいるんだろう?」
「その為にみやちゃんがいるんだろう?」


『彼(あ)れは身構えてたの』
『すずめを守れるように身構えてたの』


「お前の台詞(セリフ)だよ、忘れたの?」

然う、言うくろじの言葉に
自分の言葉を思い出すはつねが歯を食いしばり何度も頷く

屋外(テラス)席木製両開き扉から背を起こす
くろじがはつねと向かい合い緩緩、蹲(しゃが)み込む

「「ちどり」だっていたんだ」
「「ちどり」だっていたんだからすずめは可哀想じゃないんだ」

打明(ぶっちゃけ)、「ちどり」がどんな娘(コ)なのか知らねえけど

お前に似てるんだ
嘸(さぞ)かし、お前に似て忘れたくない娘(コ)なんだろう

嘸(さぞ)かし、お前に似て出会えて良かったと思える娘(コ)なんだろう

「そうだろう?」

然うして額(おでこ)を小突かれても
はつねは頷く事しか出来ない

如何してだろう
妙に感傷的(センチメンタル)な事を口にする

思わず

「くろじ(ぇぐ)、らしくない」

相手 (くろじ)の胸元に顔を埋めるはつねが呟やく
相手 (はつね)の頭頂部に顎を乗せるくろじが唇を尖らし反論する

「そりゃあ俺だって」
「はつねが泣いてたら本気出すわ」

「本気 (ぇぐ)?」

本気を出した結果が感傷的(センチメンタル)対応?

其れは其れで気になるも
其れ以上に気になる事が頭を過(よ)ぎる

「七 (ぇぐ)、年前は?」

七年前の出来事は
くろじにとって「本気」を出す場面ではなかったのか?

「七年前は」

相手 (くろじ)の返答に依(よ)っては
相手 (はつね)は般若にもなるが(返答は)如何(いか)に?

「お前、泣く所か」
「怒り狂ってたじゃん」

(え?)

相槌さえ打てない
はつねの頭を抱えながらくろじはくろじで考える

泣き噦(じゃく)る女 (はつね)の相手は出来るが
怒り狂う女 (はつね)の相手は出来ないのが自分の本音だ

其れこそ何が地雷になるか分からない
其れなら全集中して相手 (はつね)の心中を察すればいいのだろうが

生憎、其の能力(呼吸)はない

姉三人末っ子長男の自分が歳を重ねて学んだ事は
月に一回(実質三回)ある「女の子の日」には何があっても逆らうな、のみだ

唯、己の不甲斐なさを棚に上げて
唯唯、逃げるのは性に合わないので受け止める

本気で受け止めるから
気の利いた事一つ言えないのは勘弁して欲しい

当然、相手 (くろじ)の心の声は
当然、相手 (はつね)には聞こえない声だ

聞こえない声だが
自分を抱き寄せるくろじの温もりにはつねは目を閉じて頷いた

作品名:狐鬼 第二章 作家名:七星瓢虫