狐鬼 第二章
「駐車場(そと)も店内(なか)も一杯なのに?」
「冗談でしょう?」と、くろじが言う前に
其れは其れは大きく頷くはつねが語り始める
「あの後」
二人 (くろじ・すずめ)がログハウス喫茶店(カフェ)を後にした後
二人 (はつね・白狐)が労働契約を結んだ後
「お店の営業準備の為」
「みやちゃんに表(おもて)の掃除をしてもらったの」
そしたら
「(開店以来)見た事もない行列が出来た」
「(開店以来)見た事もない」
皆(みな)まで言うな、と駐車場の「アレ」を思い浮かべて
窓外を指差すくろじにはつねが食い気味に頷いた瞬間
満を持して
ログハウス喫茶店(カフェ)の木製出入口扉が開(ひら)かれる
くろじの時同様
案内待ちの女性客数人 等(ら)が
店内の女性客 等(ら)が肉食動物の如く爛爛と光る目を向けて迎える
(白狐に促されて)
先に入店するすずめ等(など)、眼中にない
其の背後、白狐の浮世離れした(容)姿に時(間)を止めて熱い吐息を漏らす
女性客 等(ら)の中、時(間)を動かす声
「すみません!」
「注文、お願いします!」
当たり前だが、ざわつくログハウス喫茶店(カフェ)店内
見事、周囲の客 等(ら)を出し抜き「一番手」の権利を獲得した
女性客が手を上げたまま立ち上がる
羨望と嫉妬が混沌する
他(た)の女性客 等(ら)の眼差しを尻目に「此処(ここ)よ!」と教える
女性客の(呼)声を受けて顎を引く
白狐が拙(つたな)く前掛(エプロン)の衣嚢(ポケット)から用紙と鉛筆を取り出す
続いて拙(つたな)く「伺、います」と言うと女性客の食卓(テーブル)席へと向かう
開放感ある高天井に
扇風機(シーリングファン)照明(ライト)が緩緩、回る中
ログハウス喫茶店(カフェ)の店外、店内で発生した
此の珍妙な出来事の「どゆ事?」が解ける
駐車場が「満車」の理由
ログハウス喫茶店(カフェ)が「満席」の理由
然(そ)して(女性)客 等(ら)がはつねに注文を取らせない理由
しかしSNSで情報共有されるとはいえ
短時間でここ(ログハウス喫茶店)までやってきて
短時間でここまでの人数が集まったとか、すげえな
どこの客寄せパンダだよ(笑)
思うも
余りにも阿保(アホ)臭くなるくろじは
厨房から出て、カウンターテーブルの椅子に「よっこらっしょ」と腰掛ける
未(いま)だログハウス喫茶店(カフェ)、木製出入口扉付近
突っ立ったままのすずめを手招いて(自分の)隣の椅子へと促がす
「みやちゃんさ」
「「です・ます」言葉、使えるの?」
其れは冗談なのか
其れは冗談なのだろう
笑いながら訊ねる
くろじに釣られて笑みを浮かべるすずめも戯(おど)ける
「あれ?、あれれ?」
戯(おど)けるも
自分 (すずめ)の感情は筒抜けだ
自分 (すずめ)の感情はみや狐(白狐)には筒抜けだ
至極、涼しい顔で
女性客の注文を繰り返えす白狐が「お待ちください」と言い終わらない内に
彼方此方の食卓(テーブル)席から一斉に(呼)声が挙がる
「すみません!」
「すみません!、お願いします!」
「此方(こっち)もお願いします!」
「すみません!」
「すみません!」
略(ほぼ)同時に挙がる複数人の(呼)声に
三人 (はつね・くろじ・すずめ)は当然、「二番手」を確認出来ないが
生憎、耳がいい白狐は迷う事なく「二番手」の食卓(テーブル)席へと向かう
絶対(ぜってぇ)、適当だろう?!
憚(はばか)る事なく盛大に噴き出す
くろじが「すずめちゃんも苦労するなあ、こりゃあ」面白がり盗み見る
彼女 (すずめ)の横顔には憂(うれ)いが浮かぶ
すずめの憂(うれ)いは
くろじの気遣う憂(うれ)いとは違うのだろうが
早速
「兄 (くろじ)」として
「妹 (すずめ)」の為に一肌(なんなら諸肌でも)脱ぐ機会(チャンス)と思う
くろじが矗(すっく)と立ち上がり「二番手」の食卓(テーブル)席で給仕する
白狐の後ろ姿を指差し声高高、暴露(笑)する
「皆さん!」
「あの彼(白狐)、彼女 (すずめ)がいますから!」
唐突に何を宣(のたま)うのか?、と目を見張る
すずめの腕を取るや勢い良く引き寄せ、自分 (くろじ)の前に立たせる
「彼女 (すずめ)!」
「でもって!」
「この二人 (みやちゃん・すずめ)、同棲してますから!」
「ヒューヒュー」と指笛を言葉(声)で吹きながら
拍手で盛り上げるくろじに半目を呉れる白狐が「ふん」と鼻を鳴らす
だが、「一肌作戦」は成功?する
直後、一斉に席を立つ
女性客 等(ら)が脇目も振らずログハウス喫茶店(カフェ)を後にする
其の女性客 等(ら)の行動は思い至らなかったのか
「マジか?」な反応で女性客 等(ら)を呆然と見送る
目の前を最後の最後、「一番手」の女性客が「(注文は)取消(キャンセル)で」と吐き捨てる
止(とど)めを刺す一撃に到頭、項垂れるくろじに代わり
此のログハウス喫茶店(カフェ)の女性店主であるはつねが和(にこ)かに挨拶する
「どうも、ありがとうございましたあ!」
然うして
誰(客)一人いなくなったログハウス喫茶店(カフェ)店内
前掛(エプロン)を外すはつねが色違いの前掛(エプロン)を着ける白狐に伝える
「表(おもて)に「休憩中」の札、お願い」