火曜日の幻想譚 Ⅲ
323.やつらは本気を出していない
人類が滅亡する状況を考えたことのない人は、あまりいないだろうと思う。
いん石の落下とか、異常気象だとか、核のボタンが押されるとか、さまざまな可能性が考えられるが、人類が滅んだあとの地球はいったいどうなっているだろうか。恐らく、かなりの種の動植物も道連れでいなくなりはしそうだが、それでも大半は生き残ると思うのだ。その際、考えられるのは、彼らが人間をどう思っていたかだろう。正直、大半の生物は人間のことを、それほど快く思っていない気がしてしまう。
人間はこと環境問題に関しては、素行の悪い生物と言っても過言ではない。陸を汚し、海を汚し、大気を汚し、空を汚す。こんな嫌われ者が、ある日いなくなったなら、やはり、残ったものは大喜びするのではないだろうか。
残されたものたちは、憎き人間がいない世の中を、今まで以上にのびのびと生きることだろう。ことによったら、われわれが見ている彼らよりも、さらに美しくなったり、かわいくなったり、麗しくなったりするかもしれない。
もう犬や猫、うさぎなんかはわれわれ人類がいた頃より、10倍増しでかわいくなっているに違いない。植物も、今まで人類に見せたことがないほど、愛らしい花を咲き誇らせているだろう。生物でないはずの太陽や月の輝きだって、人類がいた頃とは比べ物にならないほどの美しさだ。みんな、嫌われ者であるわれわれがいるうちは適当にやり過ごして、足元をすくわれるのを今か今かと待ち構えている。言い換えれば、やつらは今のところ、本気を出していないのだ。
本気を出した彼らをみたら、恐らく人間は圧倒されてしまうに違いない。だが、それを見ることは不可能だ。だってあいつら、人間のこと、嫌っているんだもん。