ペルセウス座流星群
上からステンノー、エウリュアレー、メドゥーサと言い、いずれも美しく愛くるしいと評判の三姉妹であった。
さて、その魅力は、高貴な神の心をも狂わせた。海神ポセイドーンは、正妻アムピトリーテーというものがありながら、三女メドゥーサとの密通を辞められないようになったのだった。
かくも美貌とは危ういものだが、はたしてメドゥーサを幸せにしたのか不幸せにしたのかと言えば、それは後者に決まった。
ポセイドーンと、処女神アテーナーの神殿で交わってしまったばかりに、アテーナーの激しい怒りを買ったのである。
そしてアテーナーは高位の大神ポセイドーンを罰することはできず、そのぶんまでメドゥーサを厳しく罰した。
メドゥーサの自慢の髪は、無数の毒蛇に変えられた。目は薄気味悪く輝き、歯はイノシシのそれ、腕は青銅、そして背には黄金の翼が伸びるという奇怪な姿に変えられてしまい、あまつさえ二人の姉も同じようにされたのだった。
「おい怪物! ちょっと聞きたいことがあるんだが」
背後から、いきなり罵声がかけられた。若い男かららしい。もはや当たり前になってしまったみじめな日々だったが、怪物呼ばわりにメドゥーサの心はやはり乱れた。姉ともども大勢の人たちから愛されて育った自身がこうなってしまったことに、いつまでも慣れられずにいたのだった。
彼女がこの場の復讐を果たすのは、決して難しくはなかった。振り返って一瞥をくれてやれば、この愚かな男は終わるのだった。そう、本当に愚かなやつ……私をメドゥーサと知って声をかけたのか何なのか……
「……貴様がメドゥーサだよな?」
振り返ると、剣の柄を握りしめた凛々しい若者は、平然と言い放った。
体のどこも石化を始めること無く、メドゥーサの目をしっかと見据えて言ってのけた。
「……そ、そんな……あんたいったい何者なの?」
動揺するメドゥーサを見て、若者は笑った。
「俺の名はペルセウス。済まないが、貴様を殺しに来た!」
そう叫ぶやペルセウスは剣を振り上げ、あとはただの女性を相手にするようにたちまちにメドゥーサを斬った。
「……うううっ……あ、あんたはいったい、どうなっているの」
倒れたメドゥーサのうめきに、ペルセウスは答えた。
「俺がひいおじいちゃん子だったのがよかった」
「……言っている意味が、さっぱり分からないんだけど……」
「血縁の無い、育てのひいおじいちゃんだがな。『つばをつけときゃ治る』で全て乗り切ってきたひいおじいちゃんから教え込まれて、今回もあらかじめ全身と目につばをつけといたらやっぱり助かった」
「……な、何それ……そんなことあるわけ……」
その言葉を最後に、メドゥーサはもうぴくりともしなくなった。
若者は剣を鞘に収めると、体中からだ液くささを放ちながら言った。
「可哀そうに。つばをつければ死なずに済んだのに」
こうしてメドゥーサは、ギリシア屈指の頑迷な石頭に退治されたのだった。
(了)